TDI


■はじめに

みなさん、ご存じの様に、地球の自転によって星は東から西へと動いていきます。
その為に高価な赤道儀やオートガイダーといったものを使って星を点像に写すために高精度に追尾しなければなりません。
しかし、CCDカメラには(機種に依りますが)、このような高価な赤道儀やオートガイダーなどが無くても、星を点に写す方法が存在します。
それが、今回、ご紹介する、TDI撮像です。

■TDIとは?

まずは基本的な原理からご紹介しましょう。
TDIとはTime Delay Intagrationの略で、天文用途としては、最近ではスカイサーベイによるNEO捜索などによく使われている撮影方法です。
しかし、実はもっとも早期に天文への応用を行ったのは日本で、ハレー彗星接近時に打ち上げた人工衛星に搭載されたカメラはTDI駆動で、
見事にハレー彗星の詳細なデータを捉えることに成功しました。ハレー彗星接近時ですから、もう15年も昔の話ですね。

さて、CCDカメラはよくバケツリレーといわれるように、画素に蓄えた光を隣の画素に送っていきます。
もし、この送るスピードを日周運動による星の移動速度とシンクロさせたらどうなるでしょうか?
星は点像のまま、隣の画素、その次の画素へと送られていきます(下概略図参照)

つまり、もっと判りやすい言い方をすれば、カメラでいう流し撮りと同じで、移動している星を点像に止めます。
もっとも、この場合、カメラは動かさずにCCDに動いて貰うというか、うまく、日周運動と同期してもらって点に留めます。
言ってみれば究極の流し撮りですね。
ここまでの話を理解できた方は、1Pixelに星が止まってる時間なんてたかが知れているから、ほとんど何も写らないのでは?と心配する方もいらっしゃるかもしれませんね。
しかし、TDIはCCDの垂直画素分の光を蓄えることができます。
つまり例えば、ST402MEでTDI撮影を行った場合、垂直方向に510Pixelありますので、これはビニング510と同義になります。
感度が510倍に増強されると考えて差し支えありません。
水平方向の画素はそのまま保ちますので、あくまでも垂直画素分(TDIでは段数と言いますが)をビニングしたのと同じになります。
実際の1画素あたりの露出時間で考えるとミリ秒単位の超超短時間露光になるでしょうが、画質は日周運動で510画素分を移動しきる時間分を赤道儀でガイド撮影させた時とほとんど変わらなくなります。

また、スキャナでスキャンを行うのと同じですので、垂直方向の画素数自体は減らない・・・どころか、厳密なセッティングは必要になりますが、
垂直方向(赤径側)の画素数はCCDのPixel数に関係なく、いくらでも伸ばし、また画角を広げることができるのです。

■撮影の実際

さて、TDI撮影ができる冷却CCDカメラは、どんなものがあるかというと、SBIG社製の(恐らく)一部のカメラとFLI社製の一部のカメラが挙げられます。
ここでは、ST402MEを用いて撮影を行いました。

TDI撮影は、当然、流し撮りですから、赤道儀は要りません。
要りませんが・・・撮像に至るまでのピント合わせ、コンポジットまで考慮すると、赤道儀に載せた方が楽チンですので、今回は赤道儀に載せて行いましたσ(^^;
鏡筒はMZRL13cm反射改で行うことにしました。F5.3と比較的明るめで、焦点距離も720mmとほどよいことが選択の理由でした。

さて、実際にどう撮影すれば良いかというと、
まず最初に行っておくことは、普通の撮影時と同じ様に望遠鏡に冷却CCDカメラを取り付けて、冷却することとピントを出すことです。
ただし、この取り付けはかなりの精度が要求されます。
と、いうのも日周運動と同期をとるために、かならずCCDの垂直方向(具体的には星が上に移動していく様にセットする)が完璧に赤径方向と一致していなければなりません。
TDI撮像の成功の是非はこの赤径方向と如何に平行にカメラを取り付けるか、ということにかかっていると言っても過言ではありません。

制御ソフトにCCDOPSを用いて行うのが簡単でしょう。
今回は、CCDOPS5.40Jを用いていますが、本家英語VerではさらにBurstModeなど高機能化が図られている様でした。

メニューより、TDI撮影を選択します。
すると・・

TDI撮像のダイアログが出ます。
まずは、焦点距離(F):に使用している光学系の焦点距離をインチに変換して入力します。

撮影ライン数は、撮影する際の垂直画素数の決定で、ここは任意のサイズでokです。
ST402だと垂直方向は510Pixelですので、ここでは2画面分の画角を得る為に1020画素に指定しています。
やはり、どうせTDI撮影するなら、画素数と画角を広げたいですからね。

その他の情報の項目を少し解説しましょう。
トータル露出時間は、今回、2画面分キッチリと指定していますから、1回の撮影にかかる時間が2分58秒になることを示しています。
等価露出時間は、日周運動によってCCDの実際の垂直方向の画素数510画素を渡りきるのにかかる時間で、今回は1分29秒です。
これは、ビニング1×510と同じで、もう少し言えば、追尾して1分29秒露出したのと同じ画質を得ることが出来ると考えて差し支えはないでしょう。


この光学系は720mmのハズですが、何度か試行錯誤して星とシンクロが取れたと思われる27.9インチ・・・約700mmを採用しています。
しかし、これはナンセンスだ。
・・・確かに、光学系の個体差があるでしょうから、720mmきっかりとはならないにしても、いくらなんでも短すぎますね・・
でも、なかなか星が点像にならなかったのです。
赤緯値は天体の実際の赤緯値を入力すれば良いわけですから、このパラメータは変更できません。
と、なると、あとは真の値が判っていないのは、光学系の焦点距離だけですから、どうしてもここの値を変更して試行錯誤ということになってしまいます。
疑えば、CCDカメラと赤径方向が一致していないことも疑えなくはないですが・・・
その場合は下の写真の様に星像が斜めに伸びると思うんですよね。おっと・・TDI撮影する前に赤道儀の電源を切るのをお忘れ無く・・(実際、何回か忘れた)

これだと赤径とCCDの垂直方向が平行になってないので、修正・・っと。

でもどうしても垂直方向に伸びてしまうんです・・・

仕方ないので、焦点距離のパラメータをいぢるという暴挙に出たわけです。

まだ多少、星像が歪んでいるけれど、これなら、まぁ・・なんとか・・・


この画像からも、ST402の765×510画素を大きく越えた画素数と画角が得られてることがお分かりになるかとは思います。
赤道儀が要らない、垂直画素数は増やせるというのがTDI撮影のもっとも大きなメリットなのです。
また、ビニング512と同義ということは、ダークノイズの輝点についても無視できます。
しかし、その換わりと言ってはなんですが、縦筋みたいなのが見られます。これはダーク減算で消えてくれますので、
結局ダーク減算は必要なのでした・・・。

ダークも引いて、10コマほど撮像してコンポジットして画像処理も行って出来上がったのがこの画像です。

まだちょっと星像がおかしいですけどね・・ σ(^^;
なんとか、TDI撮影できました ε=( ̄。 ̄;)フゥ.

■まとめ

TDI撮影を実際に行って画像を得ることはできました。
しかし、CCDカメラの取り付けに想像以上に厳密な精度が要求されること、
実際に日周運動と同期させるのが難しく、なかなか星が点にならないこと、など、使いこなすのは思っていた以上に大変でした。
しかし、経緯台であっても星雲撮影ができる点から、強度と精度が弱い赤道儀で、30秒もノータッチガイドが出来ない様なケースでは、
TDI撮影の意義が生まれてきます。
また、垂直方向の画素数は任意で増やせます(増やすほど、赤径との平行精度がシビアになりますが)から、画素数が少ないカメラでは被写体によっては、
かなり効果を得ることができます。(・・・ガイドが出来るなら、モザイク合成した方が楽じゃんという気もしますが)

冷却CCDカメラとしては、感度が高い、ST402MEが適していますが、高感度で1画素のサイズが大きいST9XEがもっともBestな選択になるでしょうか。
1画素が大きいということは、1画素あたりの露光時間をそれだけ長くとれますから、より高画質のTDI画像を得ることができます。

光学系はというと、当初、実際にやってみるまでは、ドブソニアンでも撮影できて面白いだろうと思いましたが、(まじめに場合によっては実家に置きっぱになってる、OdessyT型33cmF4.5ドブもマジで考えたんですが・・・今回の前実験で、今一歩上手くいかなかったので諦めた)
実際にドブソニアンでは、重たい冷却CCDカメラを取り付けるのは向いていないでしょう。ただ、簡易的なドブソニアン用の赤道儀に載せて、バランスをとってあげれば、意外な性能を発揮しそうです。
但し、長焦点になるほど、1画素に星が留まっている時間も短くなるわけですから、画質面では不利になります。
かといって、短焦点では1画素あたりの露出時間は伸びますが、あまりに画角が広がると、今度は日周運動での移動速度が画像の真ん中と端とで、異なってきますから、どうしても星像が点像になり難くなるでしょう。
そう考えると、400mm〜800mm程度のF値が明るい光学系・・・R200SS+コマコレクターあたりや、C8+0.33レデューサ、あるいはFasterが適任ではないかと思います。特にシュミカセ系では赤道儀の精度が問題となる機体も多いですから、その場合にTDI撮影はひょっとしたら、救いになるかもしれません。


TDIについては、SBIGの
http://www.sbig.com/pdffiles/ST7-9ICameraApps.pdf
の文書に作例があります。
国際光器での作例実験はこちら。

TDI撮像をマスターするには、かなりコツとノウハウが要求されそうですが、精度不足の赤道儀や経緯台でも成果をあげられますので、
ぜひ、興味がある方は取り組んでみてください。
すでにきちんとしたガイドシステムを構築して上手く運用されている方にとってはあんまり意味はないと判断します・・。
もうちょい、簡単に上手くいけばいいのですが・・・。

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