NarrowBandフィルターによる撮影


NarrowBamdFilterとはその単語が示すとおり、非常に狭い幅のみ透過するバンドパスフィルターのことです。
狭帯域バンドパスフィルターともいいます。
どの程度から、Narrowというのかは特に決まっていないと思いますが、ここでは透過幅が10nm程度のフィルターを使っています。
通常の三色分解用のフィルターではたいてい100nm程度の幅を持っていますから、それに比べればずっと狭い範囲しか透過しません。

では、狭帯域フィルターを使用することで、どのようなメリットがあるのでしょう?
私が作例したいくつかの作例から考えてみましょう。


・模様が強調される 

 フィルターを用いることで、輝線を放つ星雲の模様を強調することが出来ます。
三色分解フィルターやR64などの比較的、ブロードバンドなフィルターでも充分に強調効果がありますが、ナローバンドでは、模様強調の効果が最も大きく発揮されます。
別項でも述べましたが、かに星雲は複雑な光を放っており、ノーフィルターではフィラメントの情報がほとんど埋もれてしまいます。
フィルターをかけることによって、フィラメントを強調することができることが以下の画像から良く判ることでしょう。 
カッコ内の波長は大まかな透過範囲です。

M1 No Filter (400nm−1000nm) M1 Tokai製Type3 R (400-450nm,550-700nm)
M1 SC64+Tokai製Type3 R(610nm-700nm) M1 SBIG Hα Filter (650nm-660nm)

 撮影日が異なる上、特にR画像は三色分解用に撮影したこともあってS/Nが悪いので、あまり比較には向かないかもしれませんが、透過波長幅が狭くなるごとにフィラメントが強調されていることに着目してください。
R画像のS/Nが悪いため、比較しずらいのですが、それでもやはりSC64との差は見てとることができます。三色分解Rではコントラストが低い部分がR64では明瞭になっていることに着目してください。S/Nの差も考えられますが、それだけではないと思います。
SBIG Hαフィルターではさらにフィラメントが強調され、ほとんどフィラメントのみが写っているといってもいいと思われます。もはやノーフィルターの画像とはまったくの別物です。
このような点もフィルタリングの面白いところです。

・見えないものが見えてくる 

上のHαフィルターによるかに星雲からも判るのえdすが、通常ではコントラストが低く、背景光にかきけされてしまうような淡い模様が浮き出してくるのもナローバンドフィルターの特徴です。
例えば、M82のスーパーウィンド、M57の周囲に広がる淡いハロなど、ノーフィルターでは写らない淡い模様がフィルターを通すことで浮き上がってきます。
これは眼視でのフィルター運用に似ています。ノーフィルターでは全く見えないのに、OIIIフィルターをかけたら星雲が見えたという経験を持つ方もいるのではないでしょうか?
写真でも同じことがいえるわけです。

             M82スーパーウィンド          B,G,Hαによるカラー画像


 ・月明かりに強い!

あまり知られていないようなのですが、ナローバンド撮影は月明かりに強いです。
満月であっても充分な画像を得ることができます。
下の画像は2001年10月2日に撮影したものですが、この時の月がどんなものだったかは、シミュレーションソフトを使えば見ることができるでしょう。
このように月齢が大きくても、問題なく撮影できるのが、ナローバンドフィルターの良いところです。

R200SS ST7E Hαfilter 10分×2枚 2001年10月2日撮像

なぜ、月明かりに強いのか。
それは左図をみて考えてみればわかると思います。

赤い線がHαフィルターの透過範囲としましょう。
グレーは月明かりです。話を簡単にするため、どの波長でも一定の強度の明るさを放っていると考えましょう。
ノーフィルタの場合、仮にある波長の月明かりの影響が10とすると、CCDの感光する領域すべて(400-1000nm)に月明かりを感じ、背景の明るさが6000ものレベルになってしまうわけです。
ところが、狭帯域フィルターを使った場合、10nmの幅しか透過しませんから、月明かりの影響は100にしかなりません。
星雲の強度は、フィルターの透過率やHβ,OIIIが写らないことによって若干落ちますが、それでもフィルターの透過率分程度、トータルの露出を延ばしてあげれば、闇夜に撮影したものと変わらない画像ができると思われます。
実際には、ここで考えたほど単純ではないと思いますが、上に掲げたM76の写真で見れば、満月近くの明るい月が照らす晩であっても、充分な撮影が可能であることが判ると思います。ちなみに私の場合は、ナローバンド撮影はほとんど月夜に行っています。
もちろん、光害の出す輝線とは異なる波長のみ透過していますから、光害にも強い撮影法です。

・デメリット
デメリットもあります。が、SBIG製以外の冷却CCDカメラを使用なさっている方にはメリットに比べるとささいなものでしょう。

1)セルフガイドが使えない

連続光を放つ恒星の写りは極端に悪くなりますから、セルフガイドは無理と考えてください。
フィルターの半値幅にもよりますが、三色分解のBフィルターでも苦しんでいるわけですから、無理でしょう。
ガイド鏡システムが必要になります。
しかし、逆にNABG型CCDでは、輝星がブルーミングを起こすことはまずなく、この点では有利です。

2)ゴーストが生じる
5,6等星くらいの明るい星がある場合は、ゴーストが生じるようです。

その他、まだよくわかっていない事柄ですが、
とにかく背景レベルが低くなるためか、ひっかき傷のようなノイズが目立つことがあります。
ダークフレーム側のある一点のレベルが高いために、減算後に黒い傷(下記M33画像中央にもある)ができることもありますし、ダークフレームは通常以上にシビアかもしれません。
これらは、背景のレベルが極端に低いために生じている(ダーク・フラットによる誤差が相対的に大きくなり目立つ)と考えられるため、もしかしたら闇夜に撮影するよりも、むしろ月夜の撮影の方が背景レベルがあがるため、かえってよいのかもしれません?

左画像がそれで、やや面積のある点状ノイズとまるで流星のような、キズ状のノイズが随所にみられました。
月が沈んだ後に、MT160で撮影したもので、バックグラウンドレベルが異様に低く、そのせいではないかと疑っています。1回あたりの露出は10分ですが、レンジが256程度(BGレベルも100程度だったと思う)で8bitでも収まるなと思ったことを覚えています。
これで、MT160のF6.3での撮影は無理と考え、以後、撮影にはR200SS(F4)を使用しています。見えないものを写そうとすると露出時間は相当かけなくてはいけません。

M33 R200SS ST7E SBIG Hαfilter 2001年10月2日撮影 10分×15枚

驚きの一枚。SBIG Hαフィルターの威力をまざまざと見せつけられた。
銀河らしいものはほとんど写っておらず、写っているのはすべてHII領域と思われる。
半値幅3nmの威力、というところ。
まさかこんな風に写るとは想像もしていなかった。
これで、またやることが増えました。
ちなみにこの画像も2001年10月2日のものです。
これだけ写れば、月明かりの影響は無視して良いと思います。
大切なのは、月明かりよりも、透明度とシーイングです。


OIII撮影など

輝線星雲(散光星雲・惑星状星雲)が放っているのは何も、Hα線だけではありません。他にも様々な輝線を放っています。
例えば、OIII(酸素輝線)は肉眼で良く見えることもあり、惑星状星雲・散光星雲の観望には絶大な威力を発揮します。
そのためか、最近、眼視用のフィルターが各社からリリースされており、安価で入手も容易です。
撮影用としては、性能がより高いものがSBIGから出されています。
私がナローバンド撮影を始めた頃は、撮影用などはありませんでしたので、眼視用のものをなんとか流用して使っています。
眼視用のものは単体では、OIII線以外にも幅広い範囲(とりわけ600nm以上)を透過していますから、一工夫必要です。
と、いっても難しいことはなんにもなく、別のフィルターを重ねてあげるだけです。
具体的には、三色分解用のGフィルタを重ねてあげれば良いのです。
左写真では、TTL社製のGフィルターとEDMOND製の赤外カットフィルターを用いて、OIII近辺のみしか透過しないようにしてあります。
この様なものですが、性能はまずまず出ているようで、M57のハロも写ります。M1のフィラメントも上のHα画像とは違うことに注目してください。
しかし透過幅が15nm程度あることもあり、やはり撮影用のものにはかなわないでしょう。

M57 OIII R200SS ST7E 10分×10枚 M1 OIII R200SS ST7E 10分×10枚

フィルターを3枚重ねているため、透過率が70%程度まで落ち込んでいることもあるのですが、元々の発光強度もHαに比較すれば弱いため、長めの露出が必要になります。

左は同じく眼視用のHβフィルターです。
Hβの波長は486nmの青緑色の光です。
幸い、使用しているTTL社製のGフィルターは短波長側の透過率も450nm近くまで維持しているので、やはり、Hβ+TTL−G+赤外カットの3枚重ねで撮影を行います。
別にGフィルターではなく、Bフィルタでも良いのではないかと思われるかもしれませんが、実は、このTO社製フィルターは400nm以下も透過する部分があるため、短波長にも感度をもつEチップカメラではうかつに使うわけにはいきません。
また、600nm以上も透明で、このフィルターを覗くと、世界がマゼンタ色に見えます。
眼視用としては、馬頭星雲などに効果があるとのことですが、その効果を確認したことはありません。ただ、眼視でOIIIフィルターと覗き比べると見え方の違いというものが判って面白いです。

M57 H-beta R200SS ST7E 10分×10 M42 Hβ,OIII,R64 カラー合成

M57。特に特別な模様は写らなかった。惑星状星雲ではHβの強度は弱いのかもしれない・・・。
M42のカラー合成を見ても写りは惑星状星雲よりは良いが、Hαと重複するせいか、Hβ独特の構造を示すはっきりとした青色は見られない
ように思う。
Hβもあれば、Hβ・OIII・Hαでカラーに出来ると思ったのですが、あんまり面白いものでもなさそう。
他にSBIGから、SIIフィルターも販売されていますが、この場合は、SII・OIII・Hαでカラー合成するの良さそうです。
本来はSIIが最も長波長(672nm)にあるのですが・・・。

最も使いでがあるのはHαフィルターであることに間違いはありません。
もし、これから挑戦してみようと思うなら、まずはHαフィルターを用意することをお勧めします。


ナローバンドカラー撮影

ナローバンドによるカラー撮影について考えてみます。
天文台画像、HSTやすばるの美しい散光星雲や惑星状星雲の画像など、多くのものはナローバンドフィルタを使用した撮影が行われています。
フィルターも5ないし7枚程度使用しているようです。
それはともかく、我々が行っている撮影の目標、あるいは指標が天文台画像にあるなら、ナローバンドによる撮影も避けるわけにはいきません。
天文台画像のあの美しい明瞭な色彩は間違いなくナローバンドフィルターによるカラー画像の特徴だからです。

まず最初に断っておきますが、ナローバンドフィルターによる撮影の場合、リアルカラーというのはあり得ません。
本来は、500nmで青緑色の光によるOIIIを緑色か青色かに割り振って表現してしまうわけですから、リアルカラーには成り得ません。
もっとも、Hα線を明瞭な赤色で表現する天体写真はもともとリアルカラーなどではないのかもしれません。
あくまで
リアルカラー=人間の目で見たままの色彩
と、したときの話ですけどね。

また、科学写真を撮っているわけではない(どのみち、そういう目的には解像度、フィルタの純度が足りないでしょう)ので、あくまでも美しさを追求することを目的としたいと思います。
だからというわけではありませんが、W/Bはあまり気にしてないです。
正確にとると、ブロードバンドフィルタが入っている関係で、背景の星が青や緑色になります。
その傾向は上の写真に残っています。やはり自然な感じに色合成をしようとすると、フィルタの特性が出てきます。
色彩はフィルターの特性によって決まってしまいますから、あとは、不自然に成り得ない程度で、自分の好みの色彩に調整するのがいいと思います。

さて、これまでのテストでHβを用いたカラー表現はあきらめました。
そうなると、残るのはOIII,Hαの2枚です。
あとの一色はブロードバンド(通常の三色分解用)フィルターでまかなうことにします。

また、撮影の性質上、LRGB合成処理は使えません。
スゴイものができあがります (^_^A;) 
通常の三色分解撮影法でじっくりと撮影するしかなさそうです。

R,G,B Hα,G,B
Hα,OIII,B Hα,G,OIII

様々な色に彩られたかに星雲です。
まず、左上の画像は、通常のR,G,Bフィルタで撮影したかに星雲です。
恒星がもっとも多く写り、かつ、それらの色合いが自然です。
しかし、フィラメントのコントラストが低く、やや物足りません。

右上は、RGBのRをHαフィルタに置き換えた例です。
通常のRGBフィルタによる画像に比べると、フィラメントがクッキリとしてくることが判ります。
また、星雲の左下側には通常のRGBではかすかにしか写っていない部分もくっきりと写し出されています。
かにのフィラメントをクッキリ写し出すという目的であれば、この組み合わせが良いと思います。
問題は、赤色がかなり強調されてきますから、これをうまく抑え、自然に融和させることがポイントになるでしょう。

左下はRGBのRにHα,GにOIIIを割り当てたものです。Bは通常の三色分解用、IDAS製のBフィルタです。
この組み合わせによるカラー画像はかなり色が独特ですが、もっとも、フィラメントのガスの流れを表現してくれています。
ガスの様子を色の差としてはっきり見ることができるからです。
普段見慣れているものに比べるとかなり異様ですが、カラフルで豊富な色彩に表現することが出来ます。

右下は、今度は、青にOIII,赤にHαを割り当てたもので、緑は三色分解用Gです。
これでもちゃんと光の波長順に並べた組み合わせで、フィラメントの色彩を赤と青に表現することによって、違和感の少ない画になりました。
ただ、画像処理のせいもあるのですが、OIIIをBに割り当てたことによって、OIII線のフィラメントはあまり目立たなくなってしまいました。
ブロードバンドのG画像がB画像に比べて写りが良い(左画像に比べて星の数が多いことに注目してください)こともあって、それに埋もれてしまうこともあるのでしょう。
画像処理のやり方によってはもっとフィラメントを出して青いフィラメントと赤いフィラメントが絡む様子も描写できると思います。
比較的、見慣れた色彩に近く、また、目で見てもっとも、ざらつきが気になる緑色にOIIIを割り当てなくて良いため、多少、OIII画像のS/Nが悪くても目立たないというメリットもあります。

M33 R200SS ST7E    RGB=Hα,G,OIII M33  R200SS ST7E  IDAS製Type3 RGB

同様に、Hα,G,OIIIの組み合わせで撮影した、M33銀河です。
中心付近の散光星雲はHαだけにしか写っていないのですが、周辺の腕の部分の大きく広がっている星雲は、OIIIフィルターにも写っているため、紫色になっています。
通常の三色分解フィルターでは、これらのHII領域は非常にかすかにしか写ってきません。
LRGB合成の際には気を付けて丁寧に合成しないと、かき消されてしまうので注意が必要です。
それにしてもIDAS製フィルターは銀河の色が特に美しく再現されます。


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