近赤外線イメージング


モノクロ冷却CCDカメラの特徴の一つとして、近紫外線から近赤外線まで幅広い感度を持っていることが揚げられます。
目に見える可視光以外の光を捉えることを不可視光イメージングといいますが、CCDカメラのおかげで、近赤外線撮影は、その中でも実に簡単に行うことが出来ます。

必要なフィルターは、赤外フィルター。これは、カメラ量販店で売られており、安価かつ容易に入手することが出来ます。

種類も豊富で、20nmおきくらいで製品があります。
http://fujifilm.jp/support/pdf/filmandcamera/ff_opticalfilter_001.pdf

IRの後ろの数字は、透過率が50%になる波長を表しています。
IR84であれば、波長840nmで透過率50%となっているわけです。
CCDカメラは近赤外まで、約1100nmまで感度がありますが、赤外感度の高さはCCDチップによって異なります。
なるべく長い波長である方が可視光との差は大きくなり、面白くなりますが、今度は感度が低くなりすぎて、撮影は難しくなります。
1枚購入するとすれば、IR80前後のフィルターを買うのが良いでしょう。
赤感度が低い、ST2kなどのKAI系CCDや、SONY製HADセンサ採用機(ExViewHADセンサは赤感度があります)では、恐らくもう少し短いIR76程度のフィルターを使う方がいいのではないかと思われます。

ST8EなどのKodak製FFT型CCD(NABGタイプ)を採用したカメラであれば、長めの波長域でも感度がありますから、分光感度特性から、
IR84あたりが妥当なところだろうと判断して使っています。

一番長いフィルターはIR96になります。
さすがにこれをつかっての星雲撮影はかなり厳しいのではないかと思われますが、惑星撮影などでは面白いと思われます。
M42などの明るい天体には使ってみたい気がします。


いくつか、これまでに撮影した作例を紹介しましょう。

可視光(IRカット入りL画像) IR84

赤外線フィルターでは波長が長いところを使う為、暗黒星雲を見通すことが出来ます。
また、Hα線を避けていることもあり、星雲の中にある星々を描出することが可能となります。
上のNGC2024では、特徴的な暗黒星雲の複雑な形状が、赤外線では、見比べてみると、だいぶ薄まっているのが判るかと思います。
そして、通常撮影では星雲に隠れて見えなかった、星雲の中の星々が描き出されているのが判ることでしょう。

可視光 近赤外三色分解

M42の作例では、IDAS TYPE4フィルターとSC70を用いて、近赤外光で三色分解撮像を行った作例です。
このフィルターは近赤外線でも三色分解撮像が出来るのが特徴です。
残念ながら、近赤外での三色分解ではさほど画像に差ができず、ほとんど無彩色に近い画像となってしまいました。
恐らく近赤外光を利用したカラー表現を行うのであれば、B,G,IRなどでR画像をIR画像に置き換えて使う方が、面白い結果になるのではないかと思います。
とはいえ、M42の星雲の中には、通常撮影では埋もれてしまう、数多の星々があることがこの画像から判ることでしょう。

DWINGELOO1

こちらは天の川の中に潜む系外銀河です。DWINGELOO1の型番が与えられています。
視直径が4’ほどの渦巻き銀河で、この画像からも辛うじて渦を巻いている様子を辛うじて伺えます。
明るい星の右上にあるのが、DWINGELOO2で、こちらも天の川の向こうにある銀河です。
こういった被写体は赤外線を使うことで初めて画像に現れてきます。
可視光では、天の川で散乱されてしまう為です。
このような天体としては、他にマフェイT、マフェイUといった天体が知られています。
もちろん、天文台ではより長い波長を使って多くの銀河が発見されています。

R,G,B IR,G,B

赤外線で撮影して面白いのは系外銀河だけではありません。
惑星撮影でも、ひと味違った作品を生み出すことが出来ます。
土星のリングはH2Oですので赤外線では反射が強くなります。したがって、リングが紅くなります。
それだけではなく、本体の色彩もカラフルになり、紅いリングと相まって、実にカラフルになりました(個人的には天王星みたいで結構気に入っていたり ^^;)
本体側の輝度も落ちるので露出時間は長くなりますが、なかなか楽しめました。

2003年大接近時の火星  

火星は特に赤外フィルターの効果が大きいことが知られています。
R+IRは、赤外線透過でToucam Pro で撮影した画像をRGB分解して得たR画像を使っています。
それはともかくとして、B画像では、表面の模様が、火星大気中のヘイズによって、散乱され、地表の模様は写りません。
(ちなみに青フィルタでも地表面の模様が写る現象をブルークリアリングといいます)
カラー合成した画像からは良く判ると思いますが、IRを使った画像では地表面のコントラストが向上していることが、判ることでしょう。
これは大気の塵によって散乱された光がIRでは余り影響を受けない為です。

光学的には赤外光を使うと分解能は落ちてしまいます。
例えば、400nmの青色の光と、800nmの近赤外光とでは、限界分解能が1/2に落ちてしまいます。
つまり、言い換えれば、400nmで口径10cmの望遠鏡で解像できる模様が、800nmでは口径20cmが必要になってしまいますから、
高分解能を要求する惑星撮影には必ずしも良いとはいえません。

しかし、火星では特に火星面の大気のヘイズの影響を避けることが出来、その効果は絶大になります。

少し余談になりますが、例えば他の惑星であっても、モノクロカメラを使って撮影する場合、
昔から、Y2(黄色)やY3(オレンジ)のフィルターを使って撮影されていました。
これは地球大気の散乱による像の乱れを避け、コントラストの向上や、色収差の影響(反射系であっても、接眼レンズを通せば色収差が発生します)を避ける為、
また、シンチレーションの影響も短波長の光(青色)ほど大きく受けますから、青色をカットするというのは理にかなってます。


inserted by FC2 system