NA140SSfを使う


■はじめに

これまで、反射系を主に使ってきて、屈折系にはあまり興味がありませんでした。
と、いうのも、

反射望遠鏡はなんといっても、安価で大口径ということ。
冷却CCDカメラには、色収差が無い(もしくは少ない)反射系が適していること。
所持している冷却CCDカメラは、チップサイズがせいぜい、1inchサイズ。
13mm×9.5mm程度のCCDなので、広い範囲に渡り収差補正された光学系よりも、中心像がシャープな光学系の方が向いていること、、、

などなど。
いろいろな理由から、屈折望遠鏡に食指が動くことがありませんでした。

ところが、昨今の天体写真の主流の一眼レフデジタルカメラは、APS-Cサイズでも、約23mm×15.5mmと、
これまで使用してきたカメラに比べ、広い視野を一度に写し出すことができます。
したがって、広い範囲にわたって収差補正された光学系を必要としてきます。
意外と反射系では、APSサイズを満たす光学系というのは稀少な様で、イプシロン200でさえも、
若干、星像が伸びてしまいます。

また、屈折系の良さに、原則として光軸ズレを気にしなくて良い取り回しの良さがあげられます。
前述の様に、イプシロン200でも星像が伸びるのですが、これが光軸が取り切れていれば、
左右の星像の伸びが均一となり、見苦しくないのですが、少しでも光軸がずれると、方々の星像の伸びだけが大きくなり、
非常に見苦しいものとなってしまう上、光軸ズレが一目瞭然です。
ST8EやSXV-H9ではそのうちの中心をトリミングしているようなものですから、冷却CCDカメラでは気にならなかった、光軸のシビアさ、それを一気に突きつけられた訳です。

そういった理由もあり、FinePixS2PROの購入以来、5年に渡り、密かに屈折光学系に魅力を感じて来ました。

今回、韓国産のCooled DSLRを入手したのを機に、少しでも本格的に使おうと思い、購入を決意したのでした。


■機材選び

さて、買うのを決意したのはいいのですが、屈折望遠鏡といっても、ピンからキリまであります。
最高の性能を望むのであれば、FSQ106EDやTOA130などが良いのでしょう。
実際、検討もしないではありませんでしたが、これらの素晴らしい望遠鏡を使った優れた作品はすでに数多く発表されていますし、今さら僕が使ったところで、先達の優れた作品に敵う写真が出来るとは思えません。
ついでにいえば、価格が価格なので、おいそれと手が出ませんしね σ(^^;
価格は20万円以内ということで考えてみることにしました。

ところで、価格を20万円以下と区切ったとしても、意外と個性ある望遠鏡があることに気が付きます。
眼視用の15cmアクロマートは、8万円程度でありますし、反面、色収差を完全に抑える蛍石と同等の性能がある光学ガラスを使っているかわりに口径は9cmしかないという機材まであり、実にバラエティに富んでいます。

その中で白羽の矢を立てたのはビクセンのNA140SSfなのですが、その他にもいろいろと検討してみました。

ビクセンマーケティングを見ていたら、中古でED115Sが19.8万円で出ていました。
ED115Sには専用のレデューサーがあり、F5.2(約600mm)に落とせますので、
丁度良いスペックとなります。
ただ、新品ではお値段がチョット、高め。
色収差は若干あるようですが、もちろん、EDアポクロマートですのでネオアクロマートの比ではありません。
口径と色収差を両立している、なかなか魅力的な製品です。
価格がもうチョット安かったら、こちらにしていたと思います。

また、NA140SSfと同価格帯のED屈折であれば、カサイからCapri
http://www.kasai-trading.jp/capri-ed.htm
という10cmF7.7EDアポが出ていますね。こちらの方は、フラットナーレデューサをなんらか追加しないと、
デジカメでは、周辺像が大きく崩れてしまうことが予想されます。
いくら屈折といっても、2枚玉では、性能に限界があり、APSサイズを満たすことが出来ないからです。
もう一工夫してBORGのレデューサ等を取り付ける必要があるとは思います。

さらに究極の鋭像を求めるなら、SDガラス(タカハシでいうスーパーEDガラス)
を採用したメグレス90もあります。
http://1hosi.com/m90.htm
色収差は皆無でしょうが、口径は9cmです。
こちらもちょっと調べた限りではタカハシSky90より高い性能を持ってはいるようです。
ただ、撮影用にはやはりレデューサ、フラットナーが必要になり、BORGのレデューサ類との接続に苦慮しないといけなくなります。

眼視を重視するなら、ネリウス150LD
http://www.kasai-trading.jp/nerius-150ld.htm
これも気になる存在です。
やはりBORGのレデューサを取り付ければ写真用としては、
相当な実力を発揮しそうではあるのですが、元もとのF値が明るいので、周辺像がどうなるか少々、冒険になりそうです、、、。
口径といい、F値といい、スペックといい、実に面白い存在ではあるのですが、、、、。
お値段がお値段だけに冒険はできないなぁ、、、。

と、意外と10〜20万円台の屈折望遠鏡は、かなり選択肢が多く、
ガラス材によって、SDを使って色収差は皆無だけど口径9cmとか、セミアポなので色収差はあるけれど、口径15cm。
その中間を狙って、硝材はEDなので、口径10cm〜11.5cmとか、いろいろと悩むところですね。

口径13cmクラスのEDアポが適価であると良いのですが、最近では、このクラスは一気に50万円オーバーコースになってしまい、かつての様に適当な良い機材が無くなってしまいました。
と、思っていたら、BORGから、125SDが出る様ですね!
ちょうど隙間を埋めてくれる価格で出てくれるといいですね。


■ネオアクロマートとは?

ビクセンによると、ネオアクロマートとは、4枚玉レンズを採用し、各レンズにパワーを分散させることにより、
球面収差、像面湾曲を従来のアクロマートの1/3〜1/5に抑え、シャープな中心像と優れた周辺像を実現したとあります。

FSQ106や125SDPに代表されるような1990年代後半より出てきた変形ペッツファール設計の光学系で、コマ収差と球面収差を抑えたアプラナートレンズであることは想像に難くありません。
ビクセンの謳い文句と合わせて考えても、APSサイズ一眼レフの周辺まで充分な星像を維持してくれることは想像できます。

NA140SSfは口径も14cmあります。
TOA130と比べ1cm大きい口径!
FSQの焦点距離530mmに対して、こちらは焦点距離800mm。天体の微細構造を写すには、この焦点距離が有利に働くことでしょう。
そして、F5.7と比較的明るい設計でありながら、フラットフィールド!
色収差こそ大きいですが、使いようによっては、より高価な望遠鏡を出し抜くだけの力を期待させるものがあります。(ま、、、逆に見れば中途半端とも言えるわけですが。そこは値段が値段ってことで割り切る必要がありますね)


さて、個人的には、一眼レフデジタルカメラで使うことを前提として購入した望遠鏡です。
アトラクスは自宅での撮影をメインに据えていこうと考えはじめましたので、移動での使用は少し避けたいと考えています。
(もちろん、ここぞ!という時は移動で使います)
そうすると、EM-200赤道儀に搭載するのが前提となりますが、左写真で見ても判ります様に、このネオアクロマート以外とでかいのです。
アトラクスで丁度いい感じがします。
ただ、重量は、6.5kg(本体のみ)と比較的軽量であるため、EM-200でもガイドシステム一式を搭載して使うことが可能です。
MT160と比べると、ちょうど、フードの分、長さがあるかなあ、という感じで、まさに文字通り、頭ひとつ分、大きい感じです。
実際にEM-200で数回運用していますので、撮影するのが不可能だとはいいませんが、EM-200に載せてみた印象は、
うーん、チョット、苦しそう、、、って感じがします。
長さ分、モーメントがかかるので赤道儀への負担は大きくなっているハズですが、まあ、もとが軽量ですので、
大丈夫だろうと割り切ろうかな、、、と思います (^^ゞ

接眼部は、fシリーズの機体ですのでクレイフォードかとも思ったのですが、知人から、ラックピニオンではないかと、指摘を受けました。
なるほど・・確かに、実のところfシリーズのクレイフォードには、販売店で見た時にあまりいい印象を持ちませんでした。
ところがこのNA140SSfの接眼部その時の印象と異なっていましたが、なるほど、ナットクです。
使用感は、一般的なラック &ピニオンで、タカハシ製に比べると少々使いにくい面があるのは確かです。
とはいえ、充分、実用に足るものです。
本機はF5.7と比較的暗めなこともあり、慣れれば問題はないでしょう。

それにしても、大口径屈折って・・カッコイイですね (o^-')

■撮影結果

■周辺星像について

左上 右上
左下 右下

APS−Cサイズでの周辺像です。
さすがに変形ペッツファール光学系。APS−Cサイズ最周辺でもその星像は満足がいくものがあります。
買ったかいがあるというものです。

■色収差について

本機はネオアクロマート。周辺像は非常に優れていますが、色収差は残っています。
そのまま使用したのでは、色収差が大きいのは明白です。
そこで、スタークラウド取扱のVRフィルタを入手して、使うことにしました。
スタークラウドで公開されている特性表は以下の通りです。

この特性表を見ると、450nmで透過率が50%といったところでしょうか。
SCフィルタで言えば、SC45相当ということになります。
Hα付近までは透過率が高く、それ以上の赤外線をカットしているのも大きな特徴でしょう。
色収差を抑えることに主眼を置いた設計となっているのが良く判ります。

VRフィルタの有無については、スタークラウドさんのHPを見ていただくとして、ここでは使用した上で、どれだけ、
星像に差があるのかを確認したいと思います。(最早使うのが大前提!)

Color

さて、画像をRGB分解してみてみました。
結果はB画像だけ、明るい星ににじみが出来ていることが判るかと思います。カラーの元画像の方が判りやすいですね。
意外なのは、Bの滲み意外はRGBの星像サイズが意外と揃っていて、シャープなことです。
Bの滲みはVRフィルタで相当に抑え込まれている(と、いうかカットされている)こともあると思いますが、RGBのピント位置がほぼ、揃っていて、タムロン328とはだいぶ違いますね。
この程度であれば、充分に使い物になりそうです。


■星像について

この様に、周辺星像は完璧、色収差についても及第点なのですが、唯一気に入らないのが、星像です。

写真はSXV-H9に半値幅10nmのHαフィルタを使って写したNGC6888、弧状星雲です。
Hαフィルタでは、色収差は関係なくなります。
微光星のシャープネスは、光学系の結像性能によって決まります(たいていは、緑色にあたるd線がもっともシャープになる様に設計する)が、微光星を見る限り、充分にシャープでHα単色でも充分な結像性能がありそうです。
結像性能にも文句はないのですが、
気に入らないのは明るい星です。
ご覧の通り、○ではなく、ヒゲが出ているのが判ると思います。

デジカメ画像でも同様ですね。
ヒゲは、この望遠鏡のレンズとレンズの間だに銀箔を入れて、接着している為に生じています。
星像がやや歪んでいる様に見える点もそのせいでしょうか。
ひょっとしたら、この機体に限っての症状かもしれませんが、若干、レンズが傾いで取り付けられているのかもしれません。
眼視で少し見た時に焦点内外像が若干楕円になる気がします(アイピースのせいかもしれませんが・・・)

ヒゲについて、あまりにも気になるようであれば、後日、薄いアクリル板を使って、対物レンズの前に口径を5mm絞って、135mmとなるような絞りを入れることも考えています。
いますが、、、完全に円となるような丁寧な加工ができるかな、、、。
とりあえず当面は現状のまま使っていこうと思っています。

いずれにしても、この星像の形状の悪さは、画素数があるデジカメではともかくとして、さすがに画素数が少ない冷却CCDカメラ用としては、
失格と言わざるを得ないですね。
これは予想外でした。

もう1点気に入らない点としては、ゴーストが挙げられますが、
これは、VRフィルタの他にLPS-P2を内蔵した為にフィルタ間で反射してゴーストが起こっている為の問題です。
フィルタを離してみるなどの実験をしましたが、やはりフィルタを1枚にした方が無難なようです。
これは今後の課題です。

■総括
購入して、約一月。
いろいろとやってみましたが、やはり屈折望遠鏡というのは手軽に使えていいものです。
光軸を気にせずに、安定した性能が得られることから、安心感があります。
また、性能はご覧の通りで、画素数が少ない冷却CCDカメラ用としては星像の形状が悪いという点は挙げられるものの、その他の点、とりわけ、フラットフィールドの写野は優れており、一眼レフデジタルカメラにはまさに打ってつけの光学系と思います。
また、眼視で何回かバーストを起こしたホームズ彗星を見ていますが、良く見え、14cmの口径を感じさせてくれます。コントラストも反射系に比べて良いようです。
月面はさすがに色のフチ取りが気になりますが・・・。
あと、やはり色収差が気になるのは、火星です。ちょっとピンぼけの状態の火星のキモイこと・・。これは以前借りたシュワルツでも感じたことですが・・・。
ピントを出してしまえばいいのですが、ピント位置を探る為に前後させた時の赤いぼけた像が、チョット・・・。個人的にはダメなんです、、。
とはいえ、ピントが充分に合えば、コントラストが高く、綺麗な火星像が楽しめるのですけどね。
いずれにしても、今後、遠征用として、気軽な観望・撮影用として、主力機として使っていこうと考えています。

確かに、一流の高価なアポクロマートに比べると色収差を始めとして、欠点はありますが、それを補って余りある、あるいは高価なアポを出し抜いていけるだけの底力をこの機体は感じさせてくれました。
ならば、あとは使いこなしていくだけ・・。
頑張って使いこなせる様に努めたいと思っています。

■作例集(2009.5追記)

全部ではありませんが、NA140SSfで撮影した写真を集めてみました。
特に、自宅からの撮影では、屈折望遠鏡の迷光の少なさと高コントラストに助けられて、デジカメでも良く写ってくれました。
さすがに反射系でデジカメだと自宅からの撮影は苦しいのですが、屈折ならなんとか撮影は可能という印象を受けました。

M1かに星雲 Cooled KissDN 自宅にて。

ピクセル等倍でのトリミング画像です。フィラメントの様子が良く写っています。
M13 CooledKissDN 自宅にて。

明るい輝星には色収差によるハロがみられますが、微光星自体はすこぶるシャープです。
M27 亜鈴状星雲 SXV-H9C 自宅にて

カラーCCDとの愛称は抜群で、デジカメだけではなく、カラー冷却CCDカメラとの組み合わせでも好結果
を得ていました。
M33 Cooled KissDN 獅子が鼻公園
M42オリオン座大星雲 CooledKissDN 獅子が鼻公園

明るめのF値とあいまって、非常に良く写ってくれます。
M51 子持ち星雲 SXV-H9Cにて。 FL-80S用レデューサ使用

強引にレデューサを入れてみました。トリミングしていますが、SXV-H9Cの2/3インチCCDでも、
周辺は星像が崩れてしまいました。
明るさはF4程度?ちょっと強引すぎましたね。
しし座のトリオ Cooled KissDN 獅子が鼻公園にて

各銀河の色合いを出したい被写体ですが、色収差がある為、強力な色彩強調を行うわけにもいかず、苦労させられました。
銀河自体は構造描写も見事で、高価なアポクロマートによる作品と比べてもひけはとらないと自負しています。
M81,M82 CooledKissDN 自宅にて ノータッチガイド3分×20コマ

手軽にノータッチガイドで写してみました。色を出しにくい点はありますが、高コントラスト、実効F値の明るさ(MT160+レデューサより明るい気がする)
から、1回あたりの露出は短くても、コンポジット枚数を増やすことで、十分にカバーできました。
M97、M108 CooledKissDN 自宅にてノータッチガイド

M81,M82と同様にお手軽ノータッチガイドですが、良く写ります。
モンキー星雲 SXV-H9 Hα+R画像 自宅にて

モノクロ冷却CCDカメラとの組み合わせですが、モノクロ冷却CCDカメラでの三色分解撮影では、R,G,B画像の
星像の大きさの差が激しすぎてまともなカラー画像に出来ませんでした。工夫が要りそうです。
モンキー星雲 CooledKissDN 獅子が鼻公園にて

なかなか綺麗に写ってくれました。が、青い反射成分は、やはり色収差で拡散されやすい分、黄色〜緑色系統の発色になってしまうようです。
ばら星雲 Cooled KissDN 獅子が鼻公園

処理が悪い可能性もありますが・・・やはり青色系統の色は出しにくいです。
馬頭星雲 Cooled KissDN 獅子が鼻公園

非常に良く写ってくれて感動しました。ゴーストはLPS-P2とVRフィルターを重ねた為です。
土星 SXV-H9C

色滲みは目立ちますが、キレ味は悪くなく、口径なりの性能は発揮できていると思います。
良く写ってくれます。




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