Luck Imaging


ある時、アストロアーツのニュースを読んでいたら面白い記事がありました。
ラッキーイメージングという手法です。
http://www.astroarts.co.jp/news/2007/09/13lucky_imaging/index-j.shtml

これによると、波面補償光学系(AOですね)を用いて、1秒間に20枚もの画像を撮像(つまり、最長でも露出は1/20秒ってことだ)し、
その中からシャープに写った画像を選んで使うというわけです。
CCDカメラには、超高感度撮像デバイスのEM-CCDカメラを使用しています。(EM-CCDについてはエンサイクロペディア参照のこと)

カメラなどは特殊ですが、然し、行われていることは、アマチュアがよくやっているWebカメラとRegistaxによる惑星撮影と全く同じです。
CCDカメラの感度は遙かに劣りますが、しかし、1/20秒の露出を1秒まで伸ばせば、それは20倍の感度アップと同等です(その分、ラッキーイメージングの効果は薄れますが)。
AOもとりあえずは無くて良いでしょう。取得した多数の画像の中から、写りの良い画像だけを抜き出す・・・。

つまり、手法自体は簡単にアマチュアによる天体撮影に応用できるわけです。と、いうかタコカメでとっくにやってるよ!

と、いうわけで、やってみました。ラッキーイメージング。
被写体としては、比較的明るい対象を選ぶ必要があります。また長焦点で狙う対象になりますから、適している被写体としては、
主に惑星状星雲ということになるでしょう。
露出時間はギリッギリまで切りつめて撮影を行うのがポイントです。

1枚画像時の画質(Gフィルタ 3秒) 100枚コンポジット

1枚画像の画質をどこまでにするかは非常に悩みましたが、星雲の外周まで辛うじてでも写るところと決めました。
画質的には100枚、コンポジットを行うことで、十分な画質を得ることが出来ることも確認しました。
ノイズに埋もれて1枚画像では見えない暗い星もコンポジットによって浮き上がってきてますね。ただ、これはノイズが平均化された為に、見えてきたのであって、
決して写ってないものが写ってきたわけではない点に注意してください。1枚画像ではノイズで見えにくかったものが見えてきたと理解してください。
何回足してもゼロはゼロ。写ってないものは写ってきません。
その点に注意して露出を決める必要があります。

画像選別には、Registaxやステライメージ5を使うのがいいでしょう。
実際にちゃんと選別を行えるのかどうか?ステライメージ5でテストしてみたのが下の画像です。
100枚中の上位10枚と下位10枚を比べてみました。

評価下位10枚 評価上位10枚

ちょっと背景レベルがあってませんが、星雲の構造を見ると、なるほど、確かに、下位10枚の方は内部構造が不明瞭ですね。
星像のシャープネスも上位10枚の方が一段とシャープです。

1枚あたりの露光時間を伸ばして撮影した場合は、これら全ての加算合成した結果と同義ですから、ぼけた画像も、シャープな画像も一緒くたに平均化されたものになることを、考えると、LuckyImagingの効果はあるといえます(と、いってもすでに、これは惑星撮影で多くの人が実証済み、経験済みですね)

ラッキーイメージングの作例です。

ホームズ彗星 ASC-11with AC2 SXV-H9 L=0.04秒×600枚

バーストして明るくなったホームズ彗星をラッキーイメージングで捉えてみました。
内部からジェットが出ている構造を辛うじてでも捉えることが出来たのはこの手法のおかげではないかと思います。
・・・が、どうでしょうかねー(笑)
NGC7662  R=3s×100 G=1s×80 B=2s×100 

同じく、ラッキーイメージングで捉えた青い雪玉星雲です。
構造描写などを見るとそれなりに効果があったのではないかと思います。
LRGB合成ではなく、純RGB合成としているのはそれなりに理由があります。

一口に分解能といっても、天体撮影の場合、

@空間分解能
A波長分解能
B時間分解能


の3つに大別できます。

@の空間分解能は、一般的にいわれている分解能で、長焦点になるほど、大口径になるほど、向上します。

Aの波長分解能、これはあまりアマチュアには意識されていませんが、近年では、Hαフィルターを使うと、
解像感が増すことが知られています。
これは、通常のRフィルターが100nmほどの透過幅があるのに対して、Hαフィルタは広くても10nmほどと、非常に狭い波長範囲しか透過させない・・・つまり、波長の分解能が高いからです。
よけいな光を通さず、純粋に水素ガスだけの光を透過させることで、構造をぼかすことが無く、波長に独特な構造をしっかりと描出させることで、解像感が高い映像を得ることができるわけです。
これは、LRGB合成法とは全く真逆の発想です。
L画像では、全ての波長を透過させてしまうわけですから・・・。

Bの時間分解能は、これまで天体撮影に於いては余り考えられてきませんでした。
せいぜいが、彗星のイオンテイルの変化や、惑星の自転による模様の移動程度でしょう。
数分レベルでしか考えられたことが無いと思います。

しかし、ラッキーイメージングの真髄は、まさにこの時間分解能の向上にあります。
シンチレーションによる大気のゆらぎを上回る高速連射・・つまり時間分解能の向上により、像がぼやける前に画像を取得する、
これこそがラッキーイメージングの本質なのです。

さて、こうして分類して考えてみると、LRGB法まで考えた場合、AとBは相反してくることがわかるでしょう。
LRGB合成で、L画像で撮影すれば、光量が稼げる分、露出時間を短くでき、時間分解能をあげることができる。
反面、波長分解能は落ちまくる(OVとHαを混在させることは高解像画像を得るのに有利といえるだろうか・・)
かといって、波長分解能をあげようとHαフィルターを使おうものなら、10秒ないし30秒も露出がかかってしまい、時間分解能落ちまくり、シンチレーションによる像が平均化されまくり(ぼけまくり)で、ラッキーイメージングなど望むべくもありませんね。

結局のところ、その日のシーイングに応じて、ということになるかなと思いますが、個人的には、先に書いた様に、どうしても、OVとHα(惑星状星雲はホントはHαに近接するNU)を混在させることは納得がいかないので、R,G,Bフィルターでの撮影としています。
とはいえ、時間分解能を上げた方が解像する気がしないでもないですから、今後の課題ですね。



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