冷却CCDカメラとデジカメ
今日、最も天体写真に使われているカメラは、一眼レフデジタルカメラといって差し支えないでしょう。
その手軽さと高性能から、入門からベテランまで天体写真に用い、ベテランの手による作品は冷却CCDカメラを凌ぐといっても過言ではないでしょう。
その様な中で、気になるのが果たしてデジタル一眼レフと冷却CCDカメラ、実際にはどの程度の差があるのか、
ということではないでしょうか。
自分の作例から考えてみたいと思います。
まず最初に、実際の画像品質・・・・つまり、CRTに表示された時の画質を見比べてみましょう。
上の画像は光学系こそ違いますが、BORG76EDはクローズアップACで焦点距離413mm F5.4、
FL-80Sは、純正レデューサで焦点距離448mmF5.6で、ほぼ光量は同程度です。
大切なのは、同日に同時撮影して得られた写真であることでしょう。
案外日によっての透明度の差は大きいことは、撮影されている方なら良くご存じでしょう。
同一光学系による比較も大事ですが、光量さえほぼ整っていれば、写りに差が出ないわけですから、
むしろ同一時刻での撮影の方が比較に適しているかもしれません。
撮像は、磐田市にある自宅からの撮像で、光害の影響も大きく、比較には同時撮像が特に適しています。
BORG76ED+クローズアップAC No.2 ST7Custom 冷却CCDカメラ R=5分×2 G=5分×2 B=10分×2 合計40分 |
FL-80S+専用レデューサ EOS Kissデジタル改 ISO200設定 10分×4 |
冷却CCDカメラによる作例では、今回は比較の為に純RGB三色合成を用いています。
フィルターはIDAS社製LRGB TypeUフィルターです。
EOSKissデジタルによる作例は、ISO感度設定を落とし、ダイナミックレンジを稼いだ上で、長時間露光をすることにより、画質向上を図っています。
光害地での撮影では、ISO感度設定を下げ、実際の露光時間を伸ばした方が画質が向上することは、すでに、S2PROでテスト済み。
EOSKissデジタルでの追試はしていませんが、撮影後のヒストグラム表示からもベストな選択をしている自信はあります。
つまり、ISO感度をあげても光害地、露光時間40分という制限ではこれ以上の画質向上はないだろうと思います。
(画像処理の仕方によっては画質向上はあり得ます)
改造機のフィルターは透過タイプであり、赤外カットではありません。
1本の回折像は、ピント合わせに使って、外し忘れました(笑)
あーあ、せめてクロスに張っておけば、まだカッコはついたのにねえ・・・。
ダークはもちろん、RAWの状態で引いています。
外気温は、13℃程度でした。
画像処理は、どちらも、コンポジット後にデジタル現像、トーンカーブ処理程度の軽度の処理で済ませています。
この辺り、比較にあたり悩ましいところです。
もちろん、両者を統一することはまず不可能ですが、軽微な画像処理で見た目を揃えることよりも、
実際には、最終作品で勝負するわけですから、
両方ともベストな画像処理を施した上での比較こそが大切な気もします。
カメラの性能は画像処理である程度カバーできますからね。
画像処理はそこまで大きく影響してくるわけです。が、それはまたの機会にしますね。
とりあえず、今回はカメラの性能を見ることに主眼をおいて、軽微な処理での比較、ということにしたいと思います。
さて、実際にモニタ上でこの画像を比較してみると、
冷却CCDカメラによるものの方が、亜鈴状星雲の淡い部分まで描出されているのが一目瞭然でしょう。
一眼デジカメの方は、青い星雲の淡い部分がどうにも苦しそうで、ざらざら感が厳しいです。
また、背景を見ても、冷却CCDカメラが滑らかなのに対し、一眼デジの作品では荒れ気味です。
以上のことから、実際の感度に関しては、やはり冷却CCDカメラが上であることが判るでしょう。
ましてや、冷却CCDカメラは通常、LRGB合成法を用いるのが通例です。
今回の作品では行っていませんが、例えば、同じ40分としても、R=5分、G=5分、B=10分 L=5分×4 という方法を採った場合、
淡い部分の描写、星雲の構造描写は、今回の作品を上回ることが可能なのは間違いないところでしょう。
さらに、RGBは3×3ビニングで、RGB=各2分(計6分) L=5分×6+4分 というテもあるわけで(カラー合成が難しいかもしれませんが)、
この辺りの自由度によって写りが相当変わってくるのも冷却CCDカメラの特徴でしょうか。
この様に感度という面では、冷却CCDカメラは明らかに一眼レフデジタルカメラを凌いでいます。
ところが、です。
この冷却CCDカメラの画素数は、1.5Mpixel。対して、EOSKissデジタルでは6Mpixelです。
プリントでの比較はどうでしょうか。
プリントを見れば一目瞭然なのですが、さしあたり、ここでは、互いにほぼ同じ画素サイズに縮小した時の画質を見比べることで、
仮想的にその状態を再現してみましょう。実際には長辺を揃えた上で、トリミングしています。
冷却CCDカメラ |
EOSKissデジタル改 |
実際にプリントしてみると一目瞭然で、冷却CCDカメラの方が極端な話し、絵であるのに対し、EOSKissデジタルの写真は、
見事なまでに写真です。
つまりプリント拡大率の差が4倍ありますから、EOSKissデジタルの画像はモニタ上で見たS/Nの悪さは、プリントでは目立たず、
むしろ、画素サイズの少ない冷却CCDカメラはプリント拡大率が大きくなり、モニタでは気が付きにくい、粗も目立ってしまいます。
参考画像はもちろん、上に示したものと同じ画像ですが、さて、両者の画像を比較してみて、どちらがS/Nが高いか・・・
星雲の透明感、背景の荒れ、星像のシャープさ。いずれにしても、画素数が大きいEOSKissデジタルの勝利ですね。
これはもちろん、A4サイズでプリントした結果も同じです。
冷却CCDカメラで同等のS/Nでプリントするのは露出をかけて画質向上を図ることで可能ですが、画素数から来る、星像の小ささ、
素子サイズからくる写野の広さの違いは、モザイク合成処理をしない限りどうにもなりません。
この様に、一眼レフデジタルカメラと普及型冷却CCDカメラとでは、感度は冷却CCDカメラが上であるため、モニタで見る・・つまり、実質的なS/Nの高さ、星雲の微細構造、非常に淡い部分の描写は上であると言えます。
しかし、プリントをした場合、その画素数の少なさから、プリント拡大率が大きくなり、粗が目立ちます。冷却CCDカメラは感度が高いのにデジタルカメラよりも、長時間露光の作品が多いのは、プリント拡大率による粗を目立たなくする為に、より高S/Nを稼がなくてはならないに他なりません。
しかし、デジカメのこの実質的な感度の悪さは、ちょっとの悪条件でも、露呈してきます。
つまり、F5内外程度の明るい光学系を使っている時には気になりませんが、
焦点距離を伸ばして、F値を暗くした場合には、とたんに画質が悪化してきます。
一眼デジでの作品は主に暗い空での撮影が多いですが、コントラストを稼ぐ為かもしれません。
何か一つでも条件が悪いと、破綻しやすくなるのがデジタルカメラではないでしょうか。
画質に余裕がないというか・・
冷却CCDカメラではそのようなことはありません。超ド級の光害地でも美しい作品が公開されているのはみなさんもご存じでしょうし、暗いF値の光学系でも充分に美しい作品が得られます。
思うに・・
冷却CCDカメラでは、どちらかというと長焦点クローズアップ作品にこそ威力を発揮するのではないでしょうか。
このジャンルでは未だ、一眼デジカメで対抗するのはなかなか至難の技と思います。
また、冷却CCDカメラの実質的なS/Nの高さは、強い画像処理にも良く耐え、より構造を描出する画像復元処理などにも良く耐えます。
まさにクローズアップにはうってつけです。
中焦点以下の、比較的広い視野を狙う散光星雲などでは、チップサイズの小さく画素数が少な目な普及型冷却CCDカメラでは、星像の鈍さ、視野の狭さから、一眼デジカメに対抗するのは難しい状況になってきていると感じます。
その中で冷却CCDのメリットを出そうとするならば、一眼デジでは描出するのが困難な、非常に淡い星雲まで描出することではないかと思います。
Hαフィルターによる描写なども、もともとがカラーセンサである一眼デジカメよりも、冷却CCDカメラに軍配があがります。
なにしろ、デジカメでは、RGGBで構成される画素のうちのRしか使わないわけですから、実際の画素数は1/4になると考えて差し支えなく、1.5Mpixelの冷却CCDと同等です。しかも感度は冷却CCDに比べ低い・・!
いずれにしても、一眼デジ、冷却CCDカメラ共、現状では特徴を掴みそれぞれ使い分けるか、自分の撮影目的、被写体、に合わせてどちらかを選択して購入する、というのがベストではないでしょうか、、、
もっとも、もし予算に余裕があるのであれば、APSサイズカラー冷却CCDや35mmフルサイズ冷却CCDカメラ、というテもありますが・・。
STL-11Kの写真は何人からかプリントを頂いていますが、正直にいって、普及型の1〜3Mピクセル冷却CCDカメラとは別次元です。もちろん、デジカメとも次元が異なる写りを呈します。星雲の描写、質感・・・デジタルカメラではいかに画素数があっても、遠く及ばないものを感じます。
ただし、これはこれで、広い面積を活かす光学系に苦慮することになりそうではありますが・・・。
まとめ
普及型冷却CCDカメラ | 一眼レフデジタルカメラ | |
画素数 | 少ない 0.33M〜2Mピクセル | 多い 6M〜10Mピクセル |
写野 | 狭い(10mm程度) | 広い |
価格 | 高価 20〜70万円 | 安価 数万円(中古)〜 |
実際(モニタ上)のS/N | 良 | やや劣る |
プリント時の画質 | 不満 | エントリーモデルでも満足 |
耐光害適正 | 高い | やや劣る(ムリではない) |
クローズアップ撮影性能 | 高い | やや苦しい面アリ |
比較的広視野星雲撮影 | 良、但し星像で劣り、 淡い部分で勝る |
良、但し非常に淡い 部分は、苦しい。 |
ナローバンドフィルタ | 効果絶大 | 画素数の優位性なくなる。 画像が荒れる傾向あり |
偽色 | なし (モノクロCCDの場合。カラーCCDでは出る) |
改造機では問題 |
外気温による画質 | 影響は比較的少ない | 影響大きい。 |
価格性能比で考えれば、一眼レフデジカメの方が圧倒的に良いですね。
当たり前ですが・・・
長焦点で微細構造に挑む場合や、非常に淡い星雲の表現、光害地での撮影が主となる場合、
様々なフィルタリングを楽しみたい場合・・・などには冷却CCDカメラが適しています。
冷却CCDカメラとデジカメの比較については、以下もご参考ください。
・VS 冷却CCDカメラ
・VS 冷却CCDカメラ2