DSIPro を使う


ガイドカメラとしてMeadeのDSIProを使っておられる方は多いでしょう。
しかし、このカメラを使っての撮影例というのは国内では極めて希少ではないでしょうか。
そこで、ここでは、DSIPro で実際に撮影してみました。

■DSIProについて

Meadeが発売していた低価格の非冷却天体用CCDカメラで、高価な冷却CCDカメラと同様に16bitA/Dコンバータを用い、天体用ならではの高機能なソフトウェアを付加した製品です。

ソフトは多機能で、かなりの高い性能を持っています。
また、シャッタ機構や冷却機構を排することで、低消費電流を実現し、USBバスパワーのみでの使用が可能となっており、非常に簡潔に手軽に使うことができます。重量も軽く、なるほど、ガイドカメラにはうってつけです。

肝心のイメージセンサは、公表はされていませんが、SONYが誇る高感度のExViewHADセンサICX254ALを搭載しているようです。
ExVirewHADセンサは、BJ-41LやSXV-H9などに採用されているICX285ALが有名ですが、
ICX285ALのセルサイズ6.45μmに対して、ICX254ALは、正方画素ではありませんが、9.6μm×7.5μmとかなり1画素のサイズが大きいことが判ります。これは、光を捉えるバケツが大きいことを意味し、同じ特性のCCDであればセルサイズが大きいほど、高感度になりますから、このDSIPro はかなり感度面では期待できると想像できます。




■DSIの使い方

DSIProは、付属ソフトウエアのAutoStar Envisageから制御を行うことが出来ます。
起動すると下の様な画面が出ます。

ここでは月を撮影していますが、DSIPro/DSIではほぼリアルタイムで映像が更新されていきますので、映像を見ながらピントを納得がいくまで追い込んでいきます。

撮影の前に設定しておくことは、
保存する場所を一番上のメニューバーのSettingを押すと出るダイアログで設定します。

次に撮影するフォーマット等を設定しておきます。
場所は右上の紫で○を付けた、SaveProcボタンのところです。
ここを押すと下の様な画面になります。

んー・・・タイムラプスとか、けっこ、本格的なんですが、ま、ここでは普通に連続撮影を行っていくことを念頭に置いてシンプルにいきましょう。
(と、いうか僕も判ってないッス ^^;)

さしあたり、FileTypeは、Fits(基本ですね)、SaveOptionは『Save all raw images』を選択しました。
一番、無難そうなところでしょう?
Normall Operationとか、Save all uncombined imageなどの違いは気になりますが・・気になる人は取説みてねってことで ^^;

ファイルフォーマットは、Fitsで問題ないと思います。
Fits3Pはたぶん、カラー画像のRGB分解した画像を保存するのだろうし、FitsIntは整数16bitでの保存となるのではないかと思います。
デジカメを使っているとTIFで保存したくなると思いますが、残念なことに8bitになってしまいました(うう、これは悲しい・・)。
とゆーわけで、Fitsを扱えるソフトをお持ちであれば、というのが前提にはなりますが、BMP,GIF,JPEG,PNG,TIFはハブにしていいと思います。

さて、ここまで設定したら、あとは簡単です。

星雲撮影であれば、Previewボタンの左側に撮影したい1回あたりの露出時間を入れます。
次にPreviwボタンの右側のLongExpにチェックを入れて、そして右上のStartボタンを押せば撮影開始です。(この画面では撮影中ですのでStopボタンになっています)
あとは、Stopボタンを押すまで、ずっと撮影を続けてくれますから、放置プレーでオッケーです。
ダーク補正や、撮影枚数の指定などを行ってませんが、これだけで必要十分な撮影ができます。
より深い設定は、慣れてきたら考えれば良いでしょう。
もっとも、ダーク画像は撮影時に減算するよりは別途撮影した方が安心できますし(万が一ダークがマッチしてなかったら、1日の撮影が無駄に終わってしまう)、連続撮影さえやってくれれば、それ以上の複雑な制御が欲しくなるときは少ないでしょうから、これで十分と思います。
ただ、DrizzleやTimeLapusなど、かなり高度な画像処理、制御機能を実現していると思われますから、少し本格的に取り組んでみたい方は、
ぜひとも調べてみることをお勧めします。
CD−ROMで提供された日本語マニュアルにはかなり詳細に丁寧な説明がされていますので一読する価値があります(って余り読んでないヤツが言ってもな〜 ^^;)。

ところで、DSI/DSIProは、MaxImDLから制御することが出来ます。
今回、使用してみましたが、MaxImDLで撮影すると保存は、やはりRAW画像での保存となるようです。
ゲインなどが違うのか、MaxImDLで撮影した画像にEnvisageで撮影したダークを減算してみたところ上手く適合しませんでした。

使い勝手については、MaxImDLは統合環境ソフトの様なもので他メーカのCCDカメラでも同様の操作性を実現している為、
個人的にはEnvisageでもMaxImDLでもどちらも使い勝手は良いです。
ただし、MaxImDLでは、わりと頻繁にオチてることがありました。
撮影していると思って見てみたら、勝手に強制終了していてちょっと悔しかったです。


撮影は実家に帰省した際に行いました。
私の実家は神奈川県相模原市。首都圏のベッドタウンにあります。
さっすが首都圏・・!
透明度はイマイチで眠たい空ではありましたが、オリオン座の三ツ星が
辛うじて、かすかにしか見えず、すばるが見えないぞ・・!

磐田市とはやっぱり、光害のレベルが違う。
そのような強い光害の中での撮影となりました。
左の写真でもかなり空が明るい様子が判るかなと思います。

撮影光学系は少し悩みました。普段、帰省した際に持ち帰るのは手軽なタムロン328や、FL-80Sが主でした。
しかし、今回、撮影する天体を考えると、少し焦点距離は長めの鏡筒が欲しいかなと思いました。
そこで、13cm反射望遠鏡を使うことにしました。
D=135mm f.l=720mm F5.3です。
鏡筒自体は、初心者用のMIZRL製のものですが、いくつか改造を施してあります。
と、いっても、DSIProなら軽量ですから、接眼部への負担もありませんから、
昨今、流行のKenkoやオライオンなどの軽量ニュートン反射でも十分に使うことができるでしょう。

フィルターについては、今回、IDAStype2LRGBスライド式フィルターを使って撮影しました。
また、これだけの光害地ですから、光害カットフィルターのLPS-P2も使いました。

ガイドについては、今回、同じ同好会のミューさんから、DSI(カラー)をお借りして、オートガイド撮影しています。
自宅ベランダからは北極星が見えない為、なかなか極軸を追い詰め切れませんので、そこをオートガイドで高速修正することで、対応してやろうという腹づもりです。

極軸については、DSIProでモニタしながら、南中前後の星と東北の星を使って合わせてみました。
南中前後の星を使うことで左右は割と追い込みしやすく、案外、素早く合わせられました。
高度方向は案外難しい様で、結局、追い込み切れませんでしたが、ベランダGPDさんより、あらかじめ、
北極星が見えるところで合わせたものをそのまま使うと良いとのアドバイス。
な、なるほど。確かに適当にいぢって苦労するよりよほどマシかも・・。
次回は検討してみます。


以下、作例です。

M42 オリオン座大星雲

明るい星は、飽和するとブルーミングが若干発生するようです。
Gainを上げて調整することで多少は対応できるかもしれません(未確認)
DSIProで720mmの光学系を用いると、これだけしか写野が取れません。
M1 かに星雲

かに星雲のフィラメントの様子、中心の星が2つに分離している様子を写し撮ることができました。
初心者用の13cm反射望遠鏡とは思えない立派な写りです。
光学系の性能を十分に引き出せたと感じます。
NGC2261 ハッブルの変光星雲

小さいですが、割と明るい天体ということもあり、DSIProでも見事に捉えることが出来ました。
こいった小さいけれど、明るい天体はDSIは得意です。
NGC2903 

しし座の頭にある明るい系外銀河です。
腕は淡く伸びている部分があるのですが、さすがに光害が厳しく、うまく写ってはくれませんでした。
磐田市内では淡い腕もちゃんと写っていましたから、いかなDSIPro といえども、暗い空で撮るにこした
ことはないということです。
強度不足のパーツを用いた為、RGBフィルター交換時に少し画像が回転してしまいました。
その為、カラー合成の際にかなり苦しんでたりします・・・。次のM51もそうですが・・。
M51 子持ち星雲

この天体も淡い部分の描写には少々不満が残りますが、しかし、光害のある中、良く写るものです。
いつもの磐田市の自宅からなら、淡い部分の描写も十分満足に足るものだったかもしれません。
それだけの感度があるカメラだということです。
M66

しし座のトリオの1つ。美しい銀河です。
淡い部分の写りも申し分なく、構造描写も見事です。
やはりDSIProの性能は伊達じゃない!
M46惑星状星雲NGC2438

M46は繊細な美しい散開星団です。相模原からでは最良の透明度に恵まれないと見ることができず、
儚げな印象があります。それはともかくとして。
散開星団はいかに美しく星を表現するかが問われます。そこで今回は星の色を描写することに念頭を
置いて処理していますが如何でしょうか。
惑星状星雲NGC2438もしっかりと描出されています。
M78 ウルトラの星

この種の淡く広がりを持つ天体はDSIProではニガテです。
特に、反射星雲は、光害地では散乱が大きいこともあって、本格的な冷却CCDカメラでも光害地では
苦手な被写体です。
画像処理の力も借りて、辛うじてなんとか描出できたという感じです。
NGC4565

かみのけ座にあるエッジオン銀河の代表格です。
RGB画像は取得しませんでしたので、モノクロですが、良く写ります。
NGC3521

マイナーな系外銀河ですが、この種の小さな系外銀河もDSIProの得意とする対象です。

いずれの天体も想像以上に良く写ってくれました。



■撮影のコツ(?)

DSIProを使ってみてまず感じたのが、AMPノイズ、ダークノイズの大きさです。

2分露光の画像なのですが、かなり大きなAMPノイズが出ています。
また、ダークノイズも大きいです。
これらはダーク減算をすると綺麗に消える(右画像)のですが、これがまた、空冷の為か、外気温のわずかな変化でダークノイズも変化する様で、マッチングが取りにくく、
この画像ではわりと綺麗に消えていますが、AMPノイズが残ったり、逆に暗く落ち込んだりと、なかなかにやっかいです。

この様な状況下であれば、1回あたりの露出を伸ばすのは必ずしも的確な対応であるとは言えません。
そこで、やはり1回あたりの露出は2分に止めることにしました。幸い?光学系はF5.3とまずまずの明るさがありますから、これでもなんとかなるでしょう。
その代わり、トータルの露出時間・・つまりはコンポジット枚数ですが、それには1時間以上となるように撮影しています。
例えば、かに星雲M1は、L画像は2分×31コマ撮影を行っています。
トータルの露出は1時間以上、というのは自分がこれまでいろいろな天体を撮影してきた経験上に依るものです。
また、このような短時間露光多数枚コンポジットは、DSIが奨める撮影方法でもあります。

と、いうわけで、個人的な見解としては、
F5前後の光学系を使い、露出は2分〜3分で、30枚〜20枚以上撮影する。
と、いうのがベストな撮影方法ではないかと感じました。

ダークについては、ソフトで設定することで、撮影時に減算しながら撮影することも出来ますが、やはり画質向上を望むのであれば、
Raw imageで保存しておいて、後でステライメージ等の画像処理ソフトで減算を行うべきであると思います。
また、外気温の変動によってダークのミスマッチが起こりやすいのは述べた通りですから、出来れば1対象を撮影する前後でダーク画像を2コマないし4コマ程度撮影しておくと、安心です。
ただ、このダーク変動については、ひょっとしたら、CCDstackの様なソフトでは上手く対応できるかもしれません(未確認)

また、一眼レフデジタルカメラに比べたら、分解は容易で正面の4つのネジを外すだけで中の基板にアクセスできますから、
ペルチェ素子を使って冷却を試みてみたくなってきます。
AMPノイズを抑え込み、1回あたりの露出を5分ないし10分まで延長できるようになると、市販の高価な冷却CCDカメラ(ST7XMEなど)と、
比べても遜色なくなります。

ところで、光害地で撮影すると、周辺減光が大きく現れ、それの補正が大変厳しくなることが良くしられています。
ところが、今回、このDSIProでは全く問題となることはありませんでした。
なぜでしょうか?
理由は簡単です。

例えば、APSサイズで撮影した場合は、この写真の様に大きな周辺減光やミラー切れが生じます。
ところが、DSIProのセンサは1/3インチCCDと、とても小さいものです。つまり、この写真で紫の□で囲った部分をトリミングするようなものです。
(□の枠のサイズは概念でテキトーですよ〜)
この小さい部分なら、周辺減光なんてほとんど気にしなくてもいいですよね。
従って、高感度特性ともあいまって光害地で撮影するには打って付けのカメラと言えます。

その他にも、チップが小さいということは、
1)極軸に鈍感
極軸がずれていると視野回転を起こすわけですが、写野が狭い為、端の星が回転が目立ちません(←今回の僕のケースでは特に重要でした)
厳密に言うとガイド星を中心として回転しますから、ガイド星が離れていてはダメですが・・。

2)光軸に鈍感
これも厳密に言うとちょっと語弊があるんですが、少し光軸がずれていた場合、4スミの星像の流れが均一になりませんので、
すぐに光軸が狂っているのがバレてしまいますσ(^^;
ところがこれも、スモールフォーマットCCDでは中心部トリミングしている状態になりますから、多少光軸がずれていても画像からは判らないんですね。

3)収差に鈍感
CCDが小さいのですから、周辺まで均一に収差補正された高価な光学系など不要で、中心部のみシャープであれば良い・・
ニュートン反射なら、コマコレクター等の補正レンズは不要ですし、シュミカセに強引に強力なレデューサを使っても問題なく使うことが出来ます。

などなど、撮影フォーマットが小さいということは意外と多くの利点があることに気づかされます。
しかし、もちろん、フォーマットが小さいということは、広い写野を取ることが出来ない、必然的に画素数も少ないという欠点になります。

■まとめ(?)

DSIProをイメージャとして、様々な天体を撮影してみました。
画素サイズが大きいExViewHADセンサの威力は絶大で、想像以上に良く写ったというのが正直な感想です。
これだけの性能のカメラをガイド専用としてしか使っていないのは如何にも勿体ない話です。
お持ちの方はぜひ活用してみては如何でしょうか。
プリントで作品レベルの写真を得る為には、被写体と撮影光学系を選ぶ必要性がありますが、
例えば、メシエ天体を制覇する為の一助とするとか、新月近くの休日前には、遠征してデジカメで撮影、平日にはDSIProで気軽に星空を写して楽しむ・・
といった目的に使っていく用途には十分に応えてくれることでしょう。
ダーク補正からLRGB合成まで、冷却CCDカメラの練習用としても十分にその役目を果たせます。
いつかは冷却CCD・・・と考えている向きには打って付けかもしれません。

−長所−
・感度が相当に高い!
・小さいCCD故、周辺減光・光軸不良・極軸不良などのエラーが写真に現れにくい。
・リアルタイムで合焦でき、かつ、CCDの画素サイズが大きい為、ピントが合わせやすい

−短所−
・写野が狭い
・画素数が少ない
・正方画素ではない為、モノクロCCDカメラの切れ味の良さを実感し難い
・非冷却の為、ダークが大きく、ダークフレームが一致し難い。


■おまけ DSI(カラー)も使ってみた。

DSIは、カラーCCDが採用されて、ワンショットでカラー画像を得ることが出来ます。
採用されているCCDチップは公表はされていませんがICX404AKと言われています。
CMYGの補色カラーSuperHADCCDを採用しています。
補色CCDは、色再現性がRGB原色カラーCCDに比べると劣ると言われていますが、反面、カラーフィルタの特性上、原色カラーCCDに比べ、光量を2倍多く取ることが出来ます。
少しでも感度を上げたい天体写真には打ってつけです。
そうはいっても、DSIは比較的感度が低いと言われています。
今回は、あまり撮影しませんでしたので、正直なところ、感度については掴めませんでした。
ただ、ガイドカメラとしては、カラー版であっても、かなり暗いガイド星を使うことが出来、DSIのガイドカメラとしての性能の高さを実感しました。

月齢2.9

これはDSI(カラー)による作例。
ただ、Fitsで保存してからカラー化する方法が判りません σ(^^;
2コマ振ってモザイク合成しています。
ピントは昨日合わせたままですから、さすがにちょいとピンぼけです。もっとも、かなり低くなってから撮影していますから、
シンチレーションのせいも大いにありますが・・。
DSIによるM42

こちらはDSIカラーによるM42です。上のモノクロ三色分解合成に比べるとずいぶんと色合いが違うのが判るかと思います。
これはDSIのCCDチップの前におかれている赤外カットフィルターのHα線の透過率が相当低い為で、赤があまり写らず、
OV線の緑色が強く出ています。
この豊富な色彩は個人的には非常に好みですが、さすがにこのフィルターを付けたままで他の散光星雲・惑星状星雲を撮影するのは得策ではないでしょう。

(2009.4追記) 月を撮ってみました。

ちょっと手軽にお月様を、ということで、月をDSIで撮影してみました。
DSIProのいいところは、面倒なことが一切ないという点につきます。
PCは用意しないといけませんが、USBケーブル1本でカメラを繋げて、リアルタイムにピントを合わせで、ハイ撮影!
この手軽さは良いですねー。
おまけに制御ソフトのAutoStar Envisageでは、自動的に良像を選別して、コンポジットをはじめとする画像処理まで行ってくれます。

AutoStar Envisage画像処理お任せ版 D=135mm f.l=720mm反射望遠鏡 直焦点

これがまた、なかなか優秀なんですよね。
上の画像は20秒くらい撮影させて自動的にコンポジットしてくれた画像で、レベル補正も含め、後処理は一切加えていません。
ご覧の通り、画質もかなり良く、手軽に高品位な映像を楽しむことが出来ます。

いろいろと使いやすくできていて、気軽に楽しみたい向きにはオススメです!
さすがに天体撮影専用機ですよね。かゆいところに手が届くというか、至れり尽くせりというか。
今は国内で販売されていないのが少し残念です。

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