激安干渉フィルターを使う


冷却CCDカメラはカメラ自体も高価ですが、さらに周辺ユーティリティ類も高価です。
特に干渉フィルターは、高価なもので、ラージフォーマットカメラ用のφ50mmのLRGBフィルターセットは10万円を超えるものもあります。
カメラ本体に加え、このフィルターの価格が冷却CCDカメラの普及の妨げになっているかもしれません。

もっと安価なフィルターは無いものかと昔から模索していました。
ケンコーのSPセットであれば、φ52mmでも安価です。SPセット+L37でLRGBセットとしても、5、6000円程度で揃えることが出来ます。が、色素フィルターである為、透過率が低めなのがツライところです。

エドモンド社も昔からRGB干渉フィルターを取り扱っていました。φ50mmRGBセットで1.5万円程度。フィルター厚は2mmですのでL37などのケンコー製フィルターをLフィルターとして使うことができます。
別途、赤外カットフィルターを併用する必要がありますが、かなり割安でLRGBフィルターを一式揃えることが出来ますので、もし、自分がラージフォーマットの冷却CCDカメラを手にすることがあれば、このフィルターを使うだろうと思っていました。割と特性も良く、魅力的なフィルターセットです。

ところが、
以前よりお世話になっている横浜のいこさんより、良いフィルターを見つけたとメールを頂きました。

それはKUPO Japanが取り扱っているダイクロイックフィルターです。
http://www.kupo.jp/filter5.htm

多数のフィルターが非常に安価で販売されていました。
φ50mmのフィルターでも、なんと2700円です。激安ですねー。
しかも、ガラス基板の厚みが1.1mmです。
これはIDAS製LRGBtype2,3フィルターと同厚で、ピント位置の移動がないまま相互に使用することが出来ます。
IDAS製type2,3フィルターをお持ちの方にとってはさらに活用の範囲が増すことでしょう。

ただ、1枚づつは非常に安価なのですが、台湾からの輸送費が別途加わります。
台湾からの輸送費は、自分が注文した時には4500円でした。
1枚づつの価格を考えると何枚かまとめて発注した方が良いでしょう。

それから、あくまでも照明用と明記されているのですから、薄いキズや周囲に欠け等があってもそれは仕様の範囲内と考えるべきでしょう。(実際に、このページではキズ・欠けについて明確な仕様の記載がありません)
幸い、フィルターは焦点面近くに置きますので面精度は問われることが無く、薄いキズ等はあっても画質に悪影響を与えることはありません。
とはいえ、やはり気にはなりますから、価格・輸送費などを考えると、各2枚づつ買っていい方を使うと考えた方がいいかもしれないですね。

なお別途、光路のどこかに赤外カットフィルターを入れる必要があります。



と、いうわけで。
購入したフィルターです。将来を考え、φ50mmのRGB用と、特性を勘案して選んだスライド式フィルター用のφ34mmのフィルター群です。

スライド式フィルターに組み込んでみました。
一番左側の青フィルターがかなり薄く水色なのがお分かりになるでしょうか。これは対光害地用として、散乱されやすいBフィルターにバンド幅が広めのものを選択した結果です。一番右側の青フィルターはかなり濃いですが、これは、金星撮像用に用意したフィルターです。
どのフィルターも別途、赤外カットフィルターは必要になりますが、目的に応じてフィルターを選択する楽しみが格安で体験できます。

なお、組み込んだフィルターは、BlliantBlue,Jade,Red,BluePurpleです。

さて、なかなか晴れてくれず困っていましたが、やっと雲間から撮影できました。
BlliantBlue,Jade,Redによる三色分解合成画像です。
機材は、カメラはCV-16ME、光学系はMT160+レデューサーで、RGB各2分×2コマです。
画像処理は極力控えるため、ホワイトバランスはステライメージ5の自動レベル調整を使って揃えてあります。
バックが緑がかっているのは、光害がある自宅からの撮影の為でしょう。

輝線星雲の色合いはM27亜鈴状星雲から判断してください。
個人的にはもう少しだけ青味が強い方が好みですが概ね狙い通りの色合いとなってくれました。

連続光の色再現は恒星から判断してください。
カメラの赤感度が高いということもあるかもしれませんが、思ったよりも赤味が強くでたかな・・。
うーん、赤のバンド幅が狭めで、青が広め・・光量でWBを取ると相対的にこういう結果となったか?
Bフィルターをもう少しバンド幅が狭いBrightBlueとした方が良かったかもしれません。

さて、いくつか興味深いフィルターをピックアップしてみましょう。


■RGB原色三色分解系

冷却CCDカメラにとって、最も基本となるRGB三色分解フィルター。
フィルターを替えることはフィルムを替えることに相当するわけで、被写体や目的とする表現によって、三色分解フィルターも使い分けたいものです。これまでは高価でとてもそこまでやることは出来きませんでしたが、このKUPOフィルターなら、目的や被写体に応じた選択も可能となります。
とりわけ、ポイントとなるのがOVラインの透過率です。
フィルムでもここの感度によって大きく描写が異なったものです。それは冷却CCDカメラの三色分解でもなんら変わりがありません。
KUPOフィルターではOVラインの透過率が良いJada、透過率が悪いDarkGreenがあり、表現目的に応じて選択するとこれまでより良い結果を得ることも可能になることでしょう。

一般的な組み合わせ・・・BrightBlue,DarkGreen,Orange
惑星状星雲撮影用・・・・・BrightBlue,Jada,Red
散光星雲撮影用・・・・・・・BrightBlue,DarkGreen,Red
高速惑星撮像・・・・・・・・・BlliantBlue,DarkGreen,GoldenAmber 

と、なるでしょうか。

KUPOのフィルターラインナップの中にもBlueはありますが、残念ながら、Blueを選択した場合、OV線の500nmラインを全く通しません。
したがって、このBrightBlueを選択することになります。
これでもOVラインは透過率が50%程度です。
しかし、この部分は色再現性に大きな影響を与えるところです。
この透過率の山裾の重なり具合が連続光の色調に大きな影響を与えるのです。
ただし、赤外カットフィルターは早めにカットオフされるタイプ(IDAS製など)でないと、700nmでの透過率が10%を越えてしまいます。この程度は影響が無いとはいえ、
エドモンド製赤外カットとの組み合わせはちょっと面白くない。
BriliantBlueです。
通常のBフィルターより、若干、バンド幅が広くとられていることがポイントです。
バンド幅が広いほど、色再現性は犠牲になりますが、光量が稼げるので、面白い結果が出せそうです。
また、特に彗星のイオンテイル用のLフィルターとしてもちょうどいいカンジです。
冷却CCDカメラによる三色分解ではなかなかイオンテイルが綺麗な青色に写らないのですが、この特性であれば、イオンテイル成分の多くを捉えることが出来、
綺麗な青色に表現させられることもできそうです。
Greenです。OV透過率が70%弱ですが、BrightBlueと組み合わせると良い感じになりそうな気がします。
ただ、いかんせん、フィルターのバンド幅が狭いのが難点。
この感度域はCCDカメラの感度も高いことが多いので、さほど大きな問題にはならないとは思いますが・・。
Jadeです。こちらの方がGreenに比べ、バンド幅が広く、光量を稼げます。
また、OV透過率が非常に高く85%を確保しているところも◎
ただ、BrilliantBlueとの組み合わせでは山の重なりがほとんどBrlliantBlueと重なっています。これは色再現性にかなり大きなマイナスとなってしまうと思います。
同様の組み合わせは冷却CCDカメラの初期の頃にB460,Po1,R1の組み合わせで、
B460のシアンの特性に緑のPo1の分光特性が被っていましたが、恒星の色再現性はかなり似た印象です(福島英夫さんの冷却CCDカメラ入門の写真を参考にしてみてください)
DarkGreen。こちらのOV透過率は非常に低く、20%程度しかありません。
星雲をS/N良く撮る、という観点からすると、このフィルターはあまり良いとはいえません。
ただし、まったくダメかというとそうではなく、例えば、散光星雲の撮影に於いては、
OV線の発色が必ずしも好ましいとは言えないケースがあります。
散光星雲を美しい透明感ある美しいピンク〜マゼンタに再現した場合、緑色の発色は却ってその表現を阻害しかねません。
また、Greenに比べると若干長波長側に透過率がシフトしているのも好感が持てます。
より美しい色再現性が期待できる可能性があります。
こちらはRedです。この赤フィルターの特徴は一般的なRフィルターに比べ、立ち上がり波長が遅く、言ってみれば、R62ないしR63といった感じになっています。
R64のHα透過率は80%程度しかありませんが、このフィルターでは92%程度あります。
Hα線の強調には非常にもってこいの特性というわけで、実に魅力的なフィルターになっています。
こちらは一般的なR60相当になるでしょう。600nmでの透過率が50%です。

こちらはO-58相当になります。
オレンジ色のフィルターになりますが、三色分解用のRフィルターとしても仕様はできます。とはいえ、バンド幅が広い赤フィルターの意味合いはどれくらいあるでしょうか。
Hα輝線はバンド幅が広いほど弱められてしまいます。
惑星の三色分解合成用として高速シャッタを切りたい時に活用することになるでしょう。


■CMY三色分解系

CMY系はすっぱりとした干渉フィルターらしい特性のフィルターは数少なく、以下の組み合わせになると思います。
CMY分解系のメリットは、やはりバンド幅が広いことから、高速シャッタが切れる点です。
輝線のある星雲撮影には全く向いていないと思いますが、連続光である惑星撮影に於いては意外な?大きなメリットが生まれるかもしれません。
惑星撮影を熱心に取り組んでいる知人がさかんにCMY合成にチャレンジしてみたいと仰っていましたが、確かにフィルターを入れても高速シャッタが切れるので、メリットは大きいかもしれません。特にWebカメラで露光時間が不足気味となる20cm以下級で撮像する場合には、CMYのメリットは量り知れない効果があるかもしれないのです。
通常の干渉フィルターでは高くて、ちょっとテスト・・・というわけにもいかないですが、このフィルターならダメもとで、、という感じで取り組むことも出来ます。

シアンフィルターとしては若干バンド幅が狭めですが、ItalianBlueがシアンフィルターとして使えそうです。 マゼンタに良いフィルターが無いと思っていましたが、Pinkが割と向いているでしょうか。
イエローはこのLightYellowが良いでしょうか。Yellowも悪くないと思いますが、こちらの方が理想的な分光特性に近いのではないかと判断しました。

■金星撮影用紫外線フィルター

CCDカメラには、近赤外線だけではなく、近紫外線にも感度があることが知られています。
ただし、一般的な光学ガラスであるBK-7では350nmよりも短い波長は透過しませんから、一般的には350nm-400nm程度の波長で撮影を行うことになります。
星雲撮影も不可能ではありませんが、かつて田中光化学工業の田中一幸さんが実験したところ、散乱の影響が大きく、まともな結果を得る為には、なるべく高山で撮影をする必要があります。
主に、金星の模様を撮影するのに使うことになるでしょう。

金星の紫外線撮影用としては適した特性を持っていると思います。
透過率のピークが390nm程度のところにあり、昔から金星の模様の撮影に使われてきた、B390をより先鋭化した感じがあります。
こちらの方のフィルターはかなり長波長側に伸びてしまっていますが、透過のバンド幅が広めですから光量を稼ぐことが出来ます。
一般的なBlueフィルターとして使うには少々短波長ですが、金星の雲を写すには、やや長波長域まで透過するため、コントラストがかなり落ちてしまうかもしれません。
それでも光量を優先させたい場合にはお勧めできます。
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