独断と偏見による冷却CCDカメラの選び方 U


前回はCCDカメラのメーカごとの特徴を知る限り述べてみましたが、今回はもう少し基本的なところから、
選び方を述べてみたいと思います。


実のところ、個人的にはデジタル一眼レフカメラの能力に驚いています。
それは恐らくは他の多くの人も同様に感じていることでしょう。
性能的に冷却CCDカメラの方が優位にあるのは間違いはありませんが、一番のネックはAPSサイズの冷却CCDカメラともなると、
そのお値段が一眼レフデジタルカメラの5〜10倍もの価格になることでしょう。
10倍ものお値段を出してまで冷却CCDカメラを求めるにはやはりそれなりに理由があると思うのです。

1)悪条件下(自宅等から)でも撮影を行いたい
2)長焦点でのクローズアップを行うので少しでも感度が高いカメラが必要
3)好条件下で非常に淡い星雲を狙うので、感度が欲しい
4)Hαフィルターを使って月夜でも撮影したい

といったところでしょうか。
いずれにしても、高い感度を要求される撮影といえます。
従って、今回は、冷却CCDカメラの感度に着目してみたいと思います。

■Q.Eで選ぼう!

さて、CCDカメラの選択にはこれまでにも論じられており、特に、光学系との組み合わせによる、
Fovpp値による分解能と画素サイズについては昔から良く論じられています。
これはCCDカメラ選択にあたり、現状でもハズせないと思いますが、
冷却CCDカメラの画素数も面積も増えた機種が出てきている現在では、冷却CCDカメラによる天体写真は昔の様に強拡大・クローズアップ路線だけではなくなってきていますから、必ずしも縛られる必要がないかもしれません(とはいえ、考慮に値します)。

画素サイズと解像力はトレードオフの関係になりますから、画素サイズについてはさほど考慮しなくても良いでしょう。
ただし、解像力は於いておいて、ノータッチガイドで高画質で撮影したいといった場合は除きます。このケースでは大画素サイズのCCDカメラでF5クラスの光学系を使って1回あたりの露出を2〜3分で複数枚コンポジットを行うことで非常に美しい画があがってきます。
画素サイズが大きいCCDはそれだけ光を集めることが出来、感度が非常に高くなる為、1回あたりの露出を切り詰めることが出来るからです。
反面、分解能は落ちますのでキレ味は落ちることと、大画素サイズのカメラは必然的に画素数が少ないですから、あまりプリント向きではありません。

さて、画素サイズを考慮から外すとなると、あと気になってくるのがCCD自体が持つ感度、すなわち量子効率(Q.E)です。
下にネットから拾ってきた各CCDのQ.Eの分光特性を示します。

さて上に2つのグラフを掲載しました。
このグラフは、縦軸に量子効率、横軸に光の波長をとり、波長ごとによる感度を見ることができるようになっています。

波長についてはなじみが無い方もいるかもしれませんので、大雑把に言うと、400nm−500nmは青色、500nm-600nmは緑、600nm-700nmは赤、700nm以上は近赤外線となります。

量子効率はCCDセンサーの感度そのものですから、ざっくばらんに言えば、QEの差をそのまま、感度比として捉えることができます。
例えば、KAI11000MとKAF6303EのHα線付近656nmで見ると、KAI11000Mは30%に対して、KAF6303Eは60%と2倍の差があります。これはそのまま感度差となっていますから、同じ光学系を使った場合、KAF6303Eは半分の露出で同等のクオリティの画像を得ることが出来ます。

CCD77BiやSI003など、ズバ抜けて感度が高いのは、背面照射CCDで、天文台ではこのタイプのCCDを使っています。
アマチュアでは少々手が出にくいものですが、やはりその高感度適正には魅力を感じてしまいますね。

背面照射の特殊な素子を除くと、KAF3200MEも非常に感度が高いことが判ります。ST10XMEなどに採用されている素子で、画素数、
高精細画素による高分解適正と併せ、高解像画像を得る為に非常に魅力的なCCDであることが判るでしょう。

人気のあるKAI11000M(現在ではKAI11002Mですが量子効率は変わりません)は、グラフを見ると判るように、500nmに感度ピークを持ち、赤感度が比較的低いことが判ります。
これはBJ-42LのKAI4021M、ST2000XMのKAI2020Mなどの素子もほぼ同じ特性と感度です。

上のグラフにはかつてのKAF1600Lなど旧いCCDチップの感度が載っています。
こうしてみると、いかにKAF1600Lの感度が低かったかがおわかりになるでしょう。
また、Eチップともてはやされた、KAF1602EL(ABG付き)とて、案外低い感度であることがおわかりになるのではないかと思います。

さて、こういったグラフを見ても今ひとつピンと来ないかも知れません。
これまで、いくつかのCCDを扱ってきた経験からお話しますと、
量子効率が30%あれば、実用になります。
量子効率が50%であれば、高感度と言っていいでしょう。
実際、使ってみるとその高感度適正を実感できるハズです。
Hα撮影も考えるのであれば、Hα線での量子効率を確認してください。

また、光害地での撮影を考えた場合、赤〜赤外線にかけて感度が高いCCDを選んだ方が良い画像を得ることができます。
赤〜赤外の方が、大気の汚れの影響を受けにくく、また、光害の影響も少ないからです。
したがって、町中からの撮影を考えた場合、KAI系CCDよりも、赤感度が高いKAF系CCDの方が有利となります。

最後にSONY製ICX285AL(BJ-41LやSXV-H9に採用されているCCDです)のQ.E.のグラフを示します。
SONY製CCD素子は、メーカからは相対感度でしか提供されていませんが、ベンダーで実測したデータ等がネットにアップされています。これはその一つです。

下のグラフでKAI2000は、ST2000に採用されたCCD素子ですが、現在では、もう10%ほど量子効率が向上したKAI2020がが使われています。
最初期のST2kは感度が一段低いですので、もし中古で購入される場合は、注意してください(CCDがKAI2001Mとなっていれば感度は現行機と同じです)

さて、このグラフを見れば一目瞭然な様に、ST2000(KAI2000)に比べれば、SXV-H9(ICX285)の感度差は圧倒的です。
ST2000を買うなら、別のカメラの方が、というのも理解して頂けるのではないかなと思います。
上のグラフのKAF1602E(NABG)と比べても感度が遜色が無いこともおわかりになるでしょう。しかもICX285はABG付き素子で、ブルーミングもしません。



もっとも、そうはいっても、残念ながら、SONYからはAPSサイズなどの大きなモノクロCCD素子は、販売されていません。
ICX285ALは、2/3インチ140万画素で今となっては、小さなCCDであり、1.4メガピクセルでは画素数も大きく見劣りします。

最終的なプリントを考えたら、やはり画素数が多い方が良いわけで、そうなってくると、高価になりますが、KAF6303やKAF16803Eを搭載したカメラを選択するか、感度はややあきらめてKAI系CCDを選択することになります。
感度は低いといっても、ピーク感度はQ.E50%を超えますので通常撮影では十分高感度なのです。
Hα撮影をする場合にはさすがにちょっと苦しいかなと思いますが、実用レベル(Q.E30%)を確保していますから、撮影できないというわけではありません。
価格性能比を考えた場合、やはりフルサイズで比較的安価であるKAI11000Mカメラを選択から外すのは得策ではないと思います。
プリントでは、画素数も重要なファクターになるからです。
もちろん、QEはないがしろにできず、私の知人にBT241というFTF3020Mという600万画素、フルサイズCCDのカメラを所有されている方がいますが、やはり感度の低さに辟易としているそうです。
一番上のグラフにこのCCDの分光感度特性がありますが、ピークですら30%に満たないことからも納得がいきます。
しかし、KAI11000Mはピークで50%を確保して、Hα線にも30%を確保しているわけですから、実用にあたり問題になることはないでしょう。フルサイズ多画素CCDの恩恵を存分に楽しむことが出来ます。
もちろん、欲を言えば、KAF6303EやKAF16803Eがあれば、言うことはありませんが・・・。

ちなみに気になる?一眼デジカメのQ.Eはどれくらいあるかというと、ピーク40%前後というところの様です。
どこかのサイトでデータをみかけた覚えがあったのですが、失念・・・。
ただし、デジカメではカラーセンサの為、モノクロ冷却CCDカメラで撮影している場合に比べ、1回あたりの連続露出を長めに、RGBと1/3に分けてしまうので、通常の3倍の露出にする必要があります(これはカラー冷却CCDも同じ)。
そういう意味ではやはり持てる分光感度の全てを余すところ無く使えるモノクロ冷却CCDカメラに比べ感度は相当に落ちてしまいます。



■CCDのサイズ
もう一つ大事なのがCCDのサイズです。
CCDチップは、実に様々な大きさがあります。一般的に使われているサイズは(APSは無いですけど)図に示す通りです。
もちろん、大は小を兼ねるといって、大きく画素が多いCCDは一部トリミングすることで、より有効に活用することができるわけで、
大きいにこしたことはありません。
然し、ラージフォーマット機は、CCDの価格が高価な点、比較的安価な製品では感度が劣る点、フィルタをはじめとする周辺ユーティリティが、
高価になる点など、金銭的な負担も大きくなります。
狙う被写体が系外銀河などの場合、CCDが大きくても、対象が小さいわけですから、余白が増えるだけです。
ただし、複数の被写体を捉えることもできますが・・。

基本的には使いたい光学系の焦点距離、写したい主な被写体の大きさなどを考えて選べば良いでしょう。
個人的には、系外銀河をメインに据えた場合、焦点距離1000mm〜2000mm程度であれば、SXV-H9の2/3インチ(8.8mm×6.4mm程度のサイズ)
で、十分です。
ですが、散光星雲を狙う場合には、500mm程度まで焦点距離を落としても写野が物足りません(ついでに言えば画素数の方がもっと足りません)。
何を中心に写したいかも考えて選ぶ必要があります。

なお、プリントに必要な画素数はプリントするサイズによって変わってきます。
A4サイズでの印刷であれば、10年以上前から言われている様に、600万画素というのを一つの目安として判断して頂ければいいでしょう。
これは、明視の距離(25cm)で、粗が見えなくなるのに必要な画素数で、当時のCCDの目標点でした。


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