8bit画像と16bit画像


最近、これまで銀塩写真を撮影されてきた方が冷却CCDを始めたという話をよく聞きます。
撮影自体は、銀塩写真と変わることはなんらなく、むしろシステムも安定しているため、とまどうことなくスムースに撮影に入れたと思います。
とまどうのは、どちらかというと画像処理ではないでしょうか。
と、いうのは、銀塩写真では、PC上で画像処理をするにしても、現像処理までを終えたネガをスキャナでスキャンして画像を処理します。いってしまえば、すでに(現像で)完成している画像に若干の手を加えて見栄えを良くする処理が主だったのではないかと思います。画像もPhotoShopなどで8bit画像として扱うことが多かったのではないかと思います。
しかし、冷却CCDカメラでは生画像しか得られないために、いわゆる現像にあたる部分は自分で処理しなくてはならないわけです。
この時に、8bit画像という狭いレンジでは扱えきれないため、16bitというより広いレンジで画像を扱うことになります。

では、8bitと16bitの違いはなんでしょう?

8bitは白〜黒、つまり最も明るいところから暗いところまでを、0〜255の数値に分けて表します。
16bitでは同様に白〜黒を2の16乗として、0〜65535の膨大な数値に分けて表現できるわけです。
ここまでは、PCで画像処理を行ってきた人ならきっと知っていますね。

ところで、人間の目では、濃淡は200階調程度しか分解して見られないといわれています。
コンピュータのディスプレイでも、256階調しか表示できません。
つまり、16bit画像では、濃淡を65536階調で表しますが、モニタに表示されるのは、その内のわずか256階調だけということになります。
レベル補正で0〜655535で表示させたとしても、表示の時点で階調はまるめられて、星雲画像の場合は、たいていは数千階調も使ってませんから、ほとんど真っ黒な画像にしかなりません。

つまり、冷却CCDカメラで得られた生画像からやる画像処理はこうです。
まず、レベル補正で基本的に星雲のデータがある部分の階調に合わせ、それ意外の階調は切り捨てる。
これでも数千階調残るはずです。
次に,テーブル変換・アンシャープマスクなどの階調圧縮処理を使って、膨大な階調から表示される256階調(8bit)に、見た目に美しいように、切り出す。
と、いうことをやっているわけです。
もっとも、これはステライメージ3でデジタル現像を使用していれば意識することなくやっていることです。

銀塩写真風にたとえれば、ネガフィルムには12bit(4096階調)程度の濃淡を表現できるといわれています。
ところが、これを印画紙にプリントしても、表現されるのはわずか数十階調にすぎません。これをカバーするために、おおい焼きなどの種々の印画テクニックがあるわけですが、冷却CCD画像でもこれとまったく同じことをやっている(やらなければならない)わけです。

ここまで読んでいただければ、おぼろげにおわかりになると思いますが、16bit画像では8bitへの切り出し方によって、画像の表現はかなり変化します。
いかに、うまく階調を圧縮して、表現したい構造をうまく抽出するか、というのが作者の腕の見せ所となるわけです。

ところで16bit画像がいかに豊富な画像情報を提供してくれるか、ということの一例をご覧に入れましょう。
上から順番に、オリジナル画像(ST7Eで撮影し、各種処理を施した完成画像),2番目は、オリジナル画像を8bit画像で保存後、トーンカーブ補正を加えたもの、最後は16bit画像(正確には32bit)でトーンカーブ補正(なるべく上の画像に近づけたつもりです)後、8bitで保存したものです。左は各画像のヒストグラムです。

Original 16bit画像を8bitに変換 左画像のヒストグラム
8bit変換後、トーンカーブ補正を実行
16bitでトーンカーブを行った後、8bitで画像保存 左のヒストグラム

注目するのは2番目のヒストグラムです。
ヒストグラムの山が櫛状になっているのが判ると思います。

先にちょっとヒストグラムの見方を簡単に説明します。
ヒストグラムとは画像の輝度の分布を横軸にとって、その数を縦軸にとったものです。
右にいくほど明るい画素の数を表します。
今回の画像では、ヒストグラムの山は、ずいぶんと左にあることが判ります。
つまり、この画像ではずいぶんと暗い画素がおおいことを意味していますが、天体画像の場合、背景たる宇宙があるため、これは仕方がないことです。
それよりも、重要なのはヒストグラムの裾がわずかとはいえ、最も明るい部分まで伸びていることです。
つまり、この画像は一部、明るい方では抜けているところはあるものの、0〜255までほぼ256階調を使っているといえます。
0〜255まですべての階調を使うのが理想の画像ですが、冷却CCDカメラ画像では16bitから8bitへと落とすため、たいてい256階調をフルレンジで使う良質のデータになります。
いかにうまく、情報を圧縮して、必要な情報を取りこぼすことなく256階調に収めるかの方が問題になります。

話を元に戻します。
ヒストグラムは輝度の分布ということが判っていただけましたが、山が櫛状になるというのはどういうことか。
それは、あるところの階調がすっぱり抜け落ちていることを意味します。
つまり、8bitに落としてから行ったトーンカーブ変更により、ある部分の階調がなくなってしまったのです。
今回は軽い変更であったため、問題ありませんが、この抜け落ちる階調が多くなると、いわゆるトーンジャンプという階調の段差が見えるようになってしまいます。
 同様に16bit画像で見た目が同じになるようにトーンカーブを変更して、その後に8bitに落としたものが一番下の画像です。
見た目は同じように見えますが、ヒストグラムを見ていただければ判るようにこちらは櫛状にデータが抜けているということはありません。

つまり、8bitにしてからの画像処理は、階調の連続性を損ねてしまいます。あまり大きな処理は8bit上ではできないというのはこのためです。
16bitであれば大きな変更を行っても切り出す8bit分の情報が変わるだけですから、階調の連続性は保たれ、0〜255のフルレンジを使う理想的なデータが得られるわけです。

最近では、銀塩写真でもデジタル化する場合は12bit以上のハイビット画像で出力できるため、本当ならば、16bit以上の画像処理が行えるソフトウェアを用いた方が美しい画像になるのですが、現状のPhotoShopでは16bit画像の読み込みまではできるのですが、階調の把握ができないので8bit以上の画像データを扱うのに向いているとはいえません。
読み込んだ後にチャンネルを8bitに変えて、それからトーンカーブ変更などを行うのは階調を必要以上に削ることになるため、あまり良い方法とはいえないのです。
そのような、階調が一部死んでいる(階調の連続性が犠牲になっている)写真,コントラストを上げたために階調数が犠牲になっている天体写真を見ることがおおいものですから、もう少し、ヒストグラムや階調というものを良く見て画像処理してあげると、よりよい画像を得ることができますよ。と、ひとこと記しておきます。あ、これはデジタル銀塩天体写真のお話です。
16bit以上を使う冷却CCD画像ではそのような作品はまずみかけません。
なお、ステライメージでは内部演算処理を32bitで行うため、実際には32bitで処理していることになります。
画像情報が豊富な場合は、16bitで保存しようとすると、階調が足りない旨の警告が出る場合があります。

も、ひとつ余談なのですが、作例はM57のOV単色画像です。
M57の周りに広がる淡い、ハロはOVでも捉えることができます。

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