FinePixS2Proのリニアリティ


■リニアリティとは?

リニアリティとは入力と出力に関する直線性のことで、CCDではこの直線性が大変良いため、通常、γ=1となります。
この場合、被写体の明るさが2倍になれば、CCDカメラでの出力カウント(輝度値)も2倍になるというように、入力と出力の関係がy=xのグラフで表される状態となります。
実際には、映像信号がマイナスにならないように、ゲタがはかされている(バイアス)ため、y=x+bのグラフになります。
ABG付きCCDカメラの場合は、輝度値が飽和に近づくと直線性が悪くなったりしますが、冷却CCDカメラの場合にはγは概ね1となるように設計されています。

もっとなじみある言葉でいえば、トーンカーブといえば分かりやすいでしょうか。
要はCCDカメラではトーンカーブがy=xの直線となっているというわけです。

下に参考までに、12bitのデジタルCCDカメラのリニアリティを掲げます。
ST7Eなどの冷却CCDカメラではこのような直線性の高い計測結果がでることと思われます。(実測はしてないです)

参考:12bitデジタルCCDカメラのリニアリティ

■測定方法

リニアリティを測るというとなにやら難しそうですが、CCDデジタルカメラ(冷却CCDカメラ等も含む)で直線性を測るのはたいして難しいわけではありません。
入力された光に対する輝度値を求めることになります。
測定方法はいくつかありますが、最も簡単で確実なのは、同じ被写体を露光時間を変えて飽和に近い状態から、ほとんど写らない状態まで撮像することです。
後で、撮像した画像から輝度値を測り、それを表計算ソフトでグラフ化すればOKです。

被写体は1等星などの実際の星でも良いのですが、シンチレーションによるゆらぎや星のスペクトル型、高度による光害などの背景光の影響など不確定要素もありますので、今回は比較的まじめに撮影に取り組んでみました。

使用機器
光源:大日本印刷 Standard Color Viewer
レンズ:Micro-Nikkor 55mm F2.8→F8
フィルタ:ND1,ND13-2

撮影風景

FinePixS2Proをはじめ、デジカメにはいくつかの設定値のパラメータがあります。
記録はCCD-RAWで行うため、ほとんどのパラメータは気にする必要がなくなりますが、ISO感度設定だけは決めなくてはなりません。
今回は、天体撮影でおそらく最も使用すると思われるISO400を選択しました。

露光時間は、今回は何回かテスト撮影して15秒〜1/6秒と決めました。
S2Proは背面の液晶パネルでヒストグラムをみることができますから、ヒストグラムが一番右端にある状態から、左端にある状態までを撮影することになります。
本来は、もう少し露出をかけて行った方が実際の天体撮影に近くなるのですが、あまりに長時間の場合は暗電流ノイズの影響も大きくなりますし、撮影の時間も長くかかってしまいます。
また、光源の電源がAC100Vのため、あまりに早い露光時間では光源のフリッカーが出てしまい、正常な輝度値が取得できない可能性があります。また、一眼レフのシャッターの精度の影響も出る可能性もあります。そのため、NDフィルターを介して減光し、露光時間を十分に長めにしています。

また、本来であれば、ダーク画像も取得しておいた方が良いのですが、今回は取得しませんでした。(う〜、忘れてた・・)
ま、まあ、ダーク補正がうまくいかない時点で、γ=1でないことは知れていたし、、、結果オーライということで (^^;
あと、うっかり外気温の記録も忘れてしまいましたが、18℃前後だったと思います。

■結果および考察

CCD-RAW画像はそのままでは開けないため、どうしてもRAW FILE CONVERTER EXを介して現像という作業を行わなくてはなりません。
ダーク補正や画像復元処理、デジタル現像処理など、基本的な処理や強力な画像処理を施したい天体画像においては、生のデータをそのまま出力したいものですが、残念ながらそれはできないようです。
そこで、なるべく生の状態に近いと思われる、以下の設定で測定を行いました。

現像パラメータ

下がリニアリティのグラフです。
グラフの赤・緑・青は、そのままS2Pro画像のRGB各プレーンに相当します。
直線性はとれていないことは一目瞭然です。

FinePixS2Proのリニアリティ

つまり、S2Proでは変光星など輝度値が非常に重要になる観測用途には向いていないことになります。
また、観賞用として考えても直線性がとれていないということは、ダーク減算がうまくいかない大きな理由となります。
しかし、γ=1では非常にコントラストが付いた写真となってしまいますから、これはデジカメとしては当然の処置です。
おそらく、現像という過程で、かなり画像処理が施されて、渡されることになります。
そうでなければ、いちいち自分達で一から画像処理を施して、画像を仕上げなければとても見られた写真にはなりません。
当然冷却CCDカメラでの天体写真ではそれが要求されるわけで、実のところ、本音をいえば、冷却CCDカメラによる画像処理に慣れている私にとっては、S2Proによる天体画像は非常に扱いにくく感じます。

リニアリティがとれていないことは解りましたが、もう少し詳しくグラフを見てみましょう。
まず、一見して解ることは、同じ露光時間においては、R,G,B各色の中でとりわけ、Gが最も感度が高い(輝度値が高い)ことが伺えます。
青色の反射星雲がよく写ることから、青色に感度が高いと思われがちですが、実際には、青色が最も感度が劣っていることもグラフから解ります。
Hαへの感度が赤外カットフィルターで抑制されていますから、相対的に青色の反射星雲が目立ってくる、と、捉える方が正解なのかもしれません。
また、散光星雲ではOV線に感度が高いため、これが目立ってきてしまうため、緑色の色調になってしまうこともあります。これはフィルムではちょうど感度ギャップにあたり、まず写ってこなかった色彩だけに違和感を感じる方も多いでしょう。
しかし、眼視で見る散光星雲はほとんどが肉眼の感度が高いOV線になります。
これだけ良く写るS2proですから、もし赤外カットフィルターを除去することに成功すればその威力は絶大なものがあるでしょう。

次に見て判ることは、グラフはサンプリング数が少ないこともあってうねうね波打ってはいますが、概ね、弧状のトーンカーブを描いていることが判ります。
PhotoShopなどでこのようなトーンカーブを描いてみたことがある人にとってはこの効果は一目瞭然でしょう。
低輝度部は持ち上げつつ、ハイライトは抑え、ラチチュードを(みかけ上)向上させ、自然な写真を作り上げようという意図が伺えます。
特にハイライトほど飽和しないようにトーンカーブが工夫されています。
但し、低輝度部は淡い部分を拾いやすくしてくれるのは助かるのですが、ノイズも拾い易いわけで、あまり好ましいともいえないかもしれません。
冷却CCDカメラでスタンダードなデジタル現像処理では低輝度部も寝かせ、ノイズが目立ちにくいよう工夫されています。
もちろん、デジタル現像処理はフィルムの特性をCCDカメラで再現するための手法ですから、フィルムでも同様な特性となっています。
天体は暗いため、低輝度部の表現が重要になるのですが、S2proのトーンカーブではこの点では実はあまり芳しくなさそうです。
低輝度部の表現、という点に関しては、S2proはフィルムに及ばないといえます。
まだまだこの辺り、デジカメには改良の余地が残っているといえそうです。

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